送り仮名の付け方、「落とせ」か「落せ」か 

「スピード落せ

こうした標識を見るたびに「落せ」の送り仮名は「落とせ」だったはず、と思っているのは私だけでしょうか?

「落とす」という漢字は、小学校3年で学習します。

子供が、

「どうして送り仮名に『と』がないの?」

思うのではないか、と想像してしまいます。

ということで、今回は、

「落とせ」と「落せ」の送り仮名の付け方

について調べることにしました。

 

「おとす」を辞書で引くと

日本語大辞典(講談社)で「おとす」を引いてみました。

おと・す【落(と)す】

(出典元:「日本語大辞典」講談社)

「と」が( )で閉じられています。

この( )の意味が巻頭「この辞典の使い方」に記載されています。

五 送り仮名

1 送り仮名は、昭和48年内閣告示『送り仮名の付け方』の通則に基づき、表示しました。送り仮名を省くことのできる語は、( )の中に、小さく示しました。

(出典元:「日本語大辞典」講談社)

つまり、「落(と)す」の (と)は省いてもよいということなのです。

補足▼

昭和48年内閣告示『送り仮名の付け方』は、昭和56年10月1日内閣告示第三号で改正されている。

 

それでは、この『送り仮名の付け方』を見てみましょう。

内閣告示『送り仮名の付け方』には

送り仮名の付け方

前書き

一 この「送り仮名の付け方」は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など、一般の社会生活において、「常用漢字表」の音訓によつて現代の国語を書き表す場合の送り仮名の付け方のよりどころを示すものである。

二 この「送り仮名の付け方」は、科学・技術・芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。

三 この「送り仮名の付け方」は、漢字を記号的に用いたり、表に記入したりする場合や、固有名詞を書き表す場合を対象と していない。

(出典元:昭和48年内閣告示『送り仮名の付け方』)

この中で、

一には、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送などの「よりどころ」である

二には、個々人の表記にまで及ぼさない

とありますが、この「送り仮名の付け方」が、公用文、教科書、新聞、放送などの基準になっているし、一般の人々もこれを基準にしています。

三の内容は、冒頭の表記「スピード落せ」に直結しています。

標識の文字は記号だから、「送り仮名の付け方」の対象ではないんですね。

「スピード落せ」などの標識の送り仮名は、できるだけ文字数を減らして短時間で認識してもらおうとしているのだそうです。

道路に書かれた危い!」「登坂車線、終り」などの標識も同じですね。

それでは、「落とす」などについて書かれている「通則2」を見てみましょう。

通則2

本則 活用語尾以外の部分に他の語を含む語は、含まれている語の送り仮名の付け方によって送る。(含まれている語を〔 〕の中に示す。)

〔例〕

(1) 動詞の活用形又はそれに準ずるものを含むもの。(前後略)

起こる〔起きる〕 落とす〔落ちる〕 暮らす〔暮れる〕 冷やす〔冷える〕

当たる〔当てる〕 終わる〔終える〕 変わる〔変える〕 集まる〔集める〕 定まる〔定める〕 

連なる〔連ねる〕 交わる〔交える〕

(2) 形容詞・形容動詞の語幹を含むもの。(略)

(3) 名詞を含むもの。(略)

(出典元:昭和48年内閣告示『送り仮名の付け方』)

〔例〕(1)が示す「落とす」は五段活用で

  • 未然形…落とさ(ない) 、落とそ(う)
  • 連用形…落とし(ます)
  • 終止形…落とす
  • 連体形…落とす(とき)
  • 仮定形…落とせ(ば)
  • 命令形…落とせ

 

となりますから、命令形「おとせ」は「落とせ」になります。

次に、通則2の続きを見てください。

許容 読み間違えるおそれのない場合は、活用語尾以外の部分について、次の( )の中に示すように、送り仮名を省くことができる。

〔例〕 浮かぶ(浮ぶ) 生まれる(生れる) 押さえる(押える) 捕らえる(捕える) 晴れやかだ(晴やかだ)

積もる(積る) 聞こえる(聞える) 起こる(起る) 落とす(落す) 暮らす(暮す) 当たる(当る) 終わる(終る 変わる(変る)

(後略)

(出典元:昭和48年内閣告示『送り仮名の付け方』)

このように、送り仮名を省くことができるのです。

「落とす」は(落す)でもよいと許容されているのです。

「落す」と書いても「おとす」以外の読み方はないので、「落す」「落せ」でもよいのです。

しかし、許容とは「大目にみる」ということですから、本則が示すとおりに書くべきだと思います。

もしも、子供に訊かれたら

もしも、子供に

「学校では『落とせ』と習ったけれど、どうしてあの標識には『落せ』って書いてあるの?」

と訊かれたときには、

  • 運転する人が短い時間で読めるように、文字を少なくしている。
  • 標識の文字は記号だから、送り仮名のルールを使わなくてよい。

という説明すればよいのではないかと思います。

これは個人的な見解ですので、もっとよい説明がありましたら教えてください。

まとめ

「落とせ」と「落せ」の送り仮名の付け方についてお伝えしてきましたが、いかがでしたか?

今回のポイントをまとめます。

「スピード落せ

  • 「落とす」の活用形で言えば「落とせ」と書くのが正しい。
  • 「落とせ」は許容により「落せ」と書いてもよい。
  • 標識の文字「スピード落せ」は記号であり、「送り仮名の付け方」の対象ではない。

参考資料が少なく、明確にお伝えすることができませんでした。記載内容の不備等へのご助言をお待ちしています。

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