百年文庫62「噓」宮沢賢治 与謝野晶子 エロシェンコ

「革トランク」宮沢賢治

主人公斉藤平太は、工学校を卒業して家で設計の仕事を始めますが、その最初の仕事で失敗して東京へ逃げ出します。しかし東京で就いた仕事も上手くいかない中、母の病気で家へ帰ることになります。

平太は、いろいろ考えた末、大きな大きな革のトランクを買って、その中に要らない絵図をぎっしりと詰めて故郷に帰ったのです。

村長をやっている父親は、そのトランクをみて苦笑いしました。

何とも味わい深い作品です。

いろいろ考えた平太。苦笑いをした父親。この二人の対比がおもしろい。

「ガドルフの百合」宮沢賢治

暗闇の中で稲光が走ります。その光に浮かび上がる白い百合の花。電光が一瞬昼間のように明るくして暗闇に戻ります。その繰り返しの中で浮かび上がる百合の花。ついに稲光が落ち一本の百合の花が折られてしまいます。その様が映像のように映し描かれています。

雨に濡れ疲れ切ったガドルフが見た夢とも現実ともつかない情景が残像のように残りました。

「噓」与謝野晶子

・自分の家は京都にあり、そこにはこわい継母がいた。

・家は友禅屋で、染めた縮緬を川で洗わなければならないが、雨の日に流した縮緬を伏見まで追いかけていったが見失ってしまった。

・継母に叱られたらどうしようと泣いていると親切なお婆さんが現れ、そこの家の子供になりなさいと言われた。

・その家は貧しくて藁で作った餅を清水で売っていた。

・餅売りで忙しくて夜遅く家に帰る途中、大谷のお墓で人さらいにさらわれて船で支那へ連れていかれる途中に嵐に遭い、堺の浜に流れ着いた。

これは9歳の少女が同級生たちに話して聞かせている話です。少女は話しながら次から次と物語を作っていくのです。

「狐の子供」与謝野晶子

小学3年か4年の女の子の話です。

学校で友達の足を踏んでしまったことから脅迫が始まります。柴田は最初お菓子を持ってくるように言ってきました。やがてそれがお金になりました。要求がだんだん激しくなっていきます。そしてそのことを知った和田が先生に言うとさらに脅迫します。柴田は狐のような顔をしていました。

今も昔も変わらない、人間が持つ悲しい一面なのだと思いました。

「ある孤独な魂 ―― モスクワ第一盲学校の思い出」エロシェンコ 高杉 一郎 訳

盲目の少年が先生に問いました。

「李さんは本当に黄色人種なんですか? 僕は彼の手を触ってみましたが白色人種の手と違いはありませんでした」

「先生、ぼくたちには王冠も衣も王笏も見えないのですが、どうすればその人は皇帝であるか見分けることができますか?」

闇の世界は少年に何事も疑ってみることを教えました。

これは、エロシェンコの自伝的作品です。

「せまい檻」エロシェンコ 高杉 一郎 訳

インドの虎の物語です。

人間が神様の前に落とした涙をなめた虎が、その晩に捕まり檻の中に入れられます。自由を奪われた虎は夢を見ました。

檻から解放された虎は野山を歩き回り、二百人の美しい女が贅沢な生活を送っているラジアの別荘に辿り着きました。そこで虎は連れてこられた二百一人目の妻を見ました。彼女は、ラジアから逃れ別荘を囲む濠に飛び込もうとしましたが連れ戻されました。その様子を見ていた虎は彼女を救おうと別荘に入り、ピストルを撃ってきたラジアを殺してしまいます。二百一人目の妻はラジアの棺と伴に焼かれることになりましたが、そこに白人の兵士が現れ彼女を助けます。

二百一人目の妻に好意を寄せていた虎の胸は耐え難いほど痛み、その夜、虎は白人の兵士も殺してしまいます。二百一人目の妻は白人の兵士の後を追って短刀で自殺します。そして、虎が彼女の血をなめようとしたとき、虎は夢から覚めました。

作中、ラジアや白人兵士を虎が殺してしまう場面などは間接的に表現されており、上記のようではありません。丹念に読めば何故虎が檻の中にいるのかが分かってくるかもしれません。

「沼のほとり」エロシェンコ 高杉 一郎 訳

銀色と金色の二羽の蝶が世界を救うために二手に分かれて太陽を探しに行きました。明くる日、金色の蝶の死体が海岸に打ち上げられていました。それを見た教師たちがそれぞれ教訓めいたことを言いいますが、それを聞いていたお寺の小僧が真実をついた質問をします。教師たちは出世し、小僧は憎まれ役になりました。世界を救おうとした蝶がいたことには誰も気付きませんでした。

いかにも世の中にありそうなことを擬人化した童話です。

「魚の悲しみ」エロシェンコ 高杉 一郎 訳

魚の鮒太郎は、「あの国」へ行くためには大人の言うことをよく聞いて、兄さんたちを愛し一生懸命勉強しなければならない、と教えられ親切で賢い魚の子になりました。しかしあるとき、教会の坊ちゃんの悪戯をきっかけに「あの国」に行けるのは魂を持った人間だけである、と聞かされます。鮒太郎は坊ちゃんに捕まえられ解剖されますが、その心臓は悲しみのために破裂していました。その後坊ちゃんは解剖学者になりましたが、その教会の鐘の音を聞きにでる者はいなくなりました。

すべてのものは人間のためにつくられたという考え方を批判している作品かと思います。

※ワシーリイ・エロシェンコ(1890~1952年)

ロシアで生まれたエロシェンコは、4歳で失明し盲学校で学びました。24歳のとき来日し東京盲学校に入り、日本語を学びながら作品を発表しています。

(062)嘘 (百年文庫 62)

中古価格
¥2,062から
(2025/4/14 10:56時点)

(Visited 9 times, 4 visits today)

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です