「白梅の女」円地文子
舞台は北鎌倉。お寺と地続きになっている裏山を背負った家の庭。物語はその家の茶室から始まります。もうそれだけで小説の舞台として成り立っていますが、この場面の展開のさせ方が読者をうならせます。
主人公は、そこで30年前に恋に落ちた20歳年上の歌人(大学教授)と再会します。主人公は40代後半、歌人は60代後半ほどでしょうか。
やがて歌人は他界し、主人公はそれまで捉われていた想念から解きほどかれますが、そんな彼女を取り乱させてしまう展開が待っていました。ラストシーンがクライマックスとなります。
「仙酔島」島村利正
初めて読む作家です。
この作品もラストシーンに主人公の思いを凝縮させています。
乱酔の夫、実直な旅商人、そして老船頭夫婦。彼らの中に主人公が見たものを静かに書き表しています。
「玉碗器」井上靖
主人公が大学時代の友人に誘われ、正倉院御物の白瑠璃碗と共に並んだ安閑天皇陵出土の玉碗を見に行きます。
白瑠璃碗と玉椀は外来のカットグラスの器物で瓜二つ。千余年の歳月を経て再会しました。
主人公は、この二つの器物の運命にふれ、亡くなった妹と義弟の愛情を重ねて見るようになります。
安定して読みやすい文体。状景も心情も心に染み込んできます。
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