「断食芸人」 カフカ 山下肇 山下萬里 訳
断食芸人はどれほど人気があったのか、そして、その人気が落ちてからの状況はどうだったのか、が描かれています。ただ、その人気の有無にかかわらず断食芸人の心情は終始一貫していました。彼は、とことん断食を続けたかったのです。だから、サーカスの檻の中にいる彼の存在が忘れ去られても断食は続きました。いや、むしろ忘れ去られてからが彼の断食の真髄だったのです。
彼がいなくなった檻に入れられた若い豹の躍動感が対比的に描かれています。
「鶴」 長谷川四郎
冒頭に「私たちは得意になり、意気投合して、仲良くなった」とあるので、この物語には、兵隊である彼らの友情が描かれていくのだろうと思いました。ところが、国境警備の任務に就いてからの彼らの生活は暗く陰鬱なものになったのです。結末の情景と主人公の心情は、作者の文章でしか表し得ないものなのではないかと思います。作者のソビエト監視隊員としての経験と五年間のシベリア抑留という事実が重く圧し掛かってきます。
「二十六人とひとり」 ゴーリキイ 木村彰一 訳
26人のパン焼き職人たち(囚人? 奴隷?)にとって、ターニャは太陽のような存在でした。彼らにとって彼女は生きる希望だったのです。しかし、彼らはターニャを偶像化し、その純潔を試しました。
きっと最後にその結末が示されているだろうと思って読み進めました。しかし……。
26人は、ターニャとの良好な関係を壊してしまったのです。彼らはターニャの真実を知ることもなく偶像化し、自らその偶像を壊してしまったのでした。
この作品は、ゴーリキイ初期短篇中の最高傑作といわれているそうです。是非ご一読を!!
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