「蛍」織田作之助
坂本龍馬襲撃事件で有名な寺田屋が舞台。主人公は彦根から寺田屋に嫁いできた登勢。気難しい姑のお定も頼りない夫伊助も次第にその人間味を醸し出してきます。継子のお光、長女千代、次女お染、養女お良。彼女らにも皆それぞれに役割がありました。くり返す不幸を噛みしめながら生きる登勢の物語。蛍が親子の幸せを象徴しています。
「吉備津の釜」日影丈吉
事業が苦境にある洲ノ下は初めて会った川本という男から山崎という資産家を紹介されます。
洲ノ下は川本の紹介状を手に山崎に会いに行きましたが、その紹介状は白紙でした。後日、山崎は詐欺の容疑で警察の追及を受け、行方を眩まします。新聞に載った山崎の写真は川本でした。山崎に会いに行く途中に乗った水上バスの中で思い出した、昔祈祷師から聞いた話との関連が面白い。
「津の国人」室生犀星
伊勢物語、第二十三段(筒井筒)第二十四段(梓弓)を題材とした作品です。和歌を中心に語られる小編から想像を膨らませ平安時代を美しく再現しています。
筒井は宮仕えのため別れた夫を待ち続けました。三年四ヶ月が過ぎ筒井は貞時と婚宴を挙げる事になりましたが、その日別れた夫が突然現れます。その時交わした歌が「あずさ弓ひけどひかねど昔より こころは君によりにしものを」などです。
実に心地よい古典文学への誘いでした。
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