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「茶粥の記」矢田津世子
清子と姑(はは)の郷里は同じ秋田のようです。清子は良人(おっと)と姑との三人暮らしでしたが、良人が急性肺炎でなくなり、二人は遺骨と共に帰郷することになったのです。
良人は、雑誌に記事まで書くほど食べ物に詳しい人でした。清子はそんな良人のことを回想します。茶粥をはじめたくさんの美味しいものが登場し読者を楽しませます。ほのぼのとした清子と姑の関係が何ともいいものでした。
「万年青」矢田津世子
福子は親類みんなから「可愛い嫁さん!」と親しまれており、本家の隠居も彼女のことを自慢していました。
隠居は福子の良人(おっと)の祖母にあたります。隠居は隠居後も采配を振るっており、孫嫁たちは隠居の寵を得ようと一所懸命だったのですが、福子の隠居に対する気持ちは他と少し違っていました。
福子の人となりが滲み出る文章が秀逸でした。
「茶人」藤沢桓夫
七宮七兵衛は、一代で財をなした希代の吝嗇家(りんしょくか)でした。つまり「けちんぼ」なのです。七兵衛は月に一度順番で開かれる茶会に招かれるものの、自家に人を招くことはありませんでした。そんな七兵衛が催促されて茶会を開いたのですが、それは実に珍妙なものでした。
資産家の吝嗇。現代でも通ずる話です。
「鱧の皮」上司小剣
ある日、讃岐屋のお文の元に家出した夫から無心の手紙が届きます。興行好きが借金を重ねた結果のようです。タイトル「鱧の皮」にはそんな夫に対する情が込められており、それが終末と見事に呼応しています。
千日前、法善寺裏の路次、善哉屋横のおかめ人形など、大阪の情緒が写実的に描かれている味わい深い物語でした。
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