「駄菓子屋」小林多喜二
お爺さんと二人で小さな駄菓子屋を営むお婆さん。近所に次々と新しい菓子屋が出来て売れ行きは芳しくありません。饅頭を作るための麦粉が残り少なくなり、お婆さんは質屋に行かなければと思っています。饅頭を作るとかえって損をしてしまいます。家には教師を目指して学校に通う息子が同居しています。三人で食事をしているとき、お婆さんは朝届いた娘の手紙を息子に読んでもらいました。「…… 健ちゃんも学校を出ればすぐに先生になれるでしょう。…… もう少しですよ。もう少しの我慢ですよ」。「もう少し」と頑張る主人公に自分の親の心情を重ねてみたりしていました。
「判任官の子」十和田 操
「判任官」とは「もと、官吏の階級の一つ。最下級の官吏」(岩波国語辞典第五版)で、1946年(昭和21年)に廃止されています。
主人公はその判任官の子供で、洋服を着たことがありません。洋服を着られるのは限られた子供だけ(例えば医者の子)で、主人公は中学生になったら買ってやると言われています。そんな主人公に判任官の父が着物の上に着る外套を買ってきてくれました。初めて外套を着て学校に行ったあくる日、主人公は同級生の女の子を雪の中に押し倒して口の中に雪を詰め込んだという身に覚えのない疑いを掛けられます。
主人公と同級生たちとの関係、その家族たちの実像が子供の視点で描かれていて興味深いものがありました。
「三月の第四日曜日」宮本百合子
二十歳になるサイは、小学校を卒業して集団就職で上京する弟の勇吉を迎えに上野駅へやって来ました。サイは勇吉の住み込み先を確認し王子の家へ帰りますが、勇吉のことが心配でなりません。サイは遠縁の家の二畳間で暮らし工場へ働きに行っています。仕事仲間や遠縁の婆さん等との関係を図りながら暮らす毎日。故郷は懐かしいのですが、そこに織り込まれて暮らそうとは思いません。自分の力で生きて行こうとするサイの心情、離れて暮らす家族への情愛が、じんわりと伝わってきました。
中古価格 |