「ことば」について考えよう

百年文庫82「惚」斎藤緑雨 田村俊子 尾崎紅葉

「油地獄」斎藤緑雨

口数の少ない、いわゆるムッツリの書生「目賀田貞之進」が、柳橋の芸妓「梅乃家小歌」に惚れてしまいました。お手洗いを出た貞之進に小歌が手拭を差し出したとき、貞之進がそれを受け取るのを躊躇していると、小歌は「あら私のではお厭なの」と押し付けるように渡しました。それ以来、貞之助の頭の中に「あら私のではお厭なの」が繰り返されます。相手の気持ちも分からないまま一方的に想いを寄せていく心情は、いつの時代も同じです。小歌会いたさに酒楼通いを続ける主人公。その結末が知りたくて一気に読み進めました。

「春の晩」田村俊子

繁雄と食事をしながら昔の恋を思い出している幾重。帰り道、幾重は別れ話を切り出しますが、繁雄は名残を惜しむように彼女と歩きました。繁雄と分かれた後、幾重は京子という若い娘の家に行きました。京子の所には原という男性の先客がいましたが、京子の原との関係ももつれていました。幾重は異性との関係をもちながらも同姓との愛を求める女性だったのです。1914年(大正3年)発表の作品。ここにも時代を問わない愛と性がありました。

「恋山賊」尾崎紅葉

1889年(明治22年)に発表された作品。

都会から来たお嬢様が、山で蕨取りをしているうちにお付きの者たちから離れ負傷してしまいます。それを助けたのが山仕事をしている万蔵。万蔵は生まれて初めて見た美しい女性の姿に魅了されてしまいます。お嬢様が気を失っていることをいいことに万蔵は頬や唇に触れてみたりしました。背負って山を下りる時、ずっとこのままでいたいと思いました。しかし、途中でお嬢様を探すお付きの者たちと出会い、万蔵の儚い恋は終わります。節くれた指とすべすべの頬との対比が印象に残ります。

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