「ことば」について考えよう

百年文庫88「逃」田村泰次郎 ゴーゴリ ハーディ

「男鹿」田村泰次郎

「私」は戦友の大木戸登が殺人を犯し、消息を絶って十数年になるという話を元刑事から聞きました。大木戸登は大学出の青白いインテリで彼の考え方には相通じるものがありましたが、戦争中の彼の非情な行動以来、不可解で不気味な存在となっていました。彼は一緒に暮らしていた飲み屋の女将の男を撃ち殺し逃亡しました。その後戦死した戦友の家に身を隠していましたが、そこで角のない牝鹿と一緒に天城山の稜線の向こうに消えたのだそうです。警戒心が強く人に近づく事のない牝鹿と共に姿を消したというミステリーな展開の中に、戦争というものがもたらした残像が見えました。

「幌馬車」ゴーゴリ 横田瑞穂 訳

地主のチェルトクーツキイという人物は実に滑稽な男でした。自慢の馬車を見せるために午餐に将軍を招いておきながら、深夜まで酒を飲み昼過ぎまで寝ていたのです。将軍が士官たちを従えて屋敷に入ってくる寸前に、彼は居留守を使って馬車に隠れました。将軍は留守を告げられましたが、せめてその馬車を見せてほしいと言います。毛布をかぶった姿で見つかったうっかり者のチェルトクーツキイ。どこか憎めないところがあります。

「三人の見知らぬ客」ハーディ 井出弘之 訳

羊飼いフェネルの家で娘の命名祝いが行われていました。外は雨が降っています。と、家の扉をノックする音が聞こえました。羊飼いは「どうぞお入り」と見知らぬ男を招き入れ雨宿りを許しました。しばらくして、また扉をノックする音が響き、羊飼いは次の見知らぬ男も招き入れました。二人の客は酒を飲み歌を歌いました。そこへ三番目の男が現れます。しかし彼は何かに怯え身をひるがえして逃げ去ってしまいます。間もなく遠くで砲声が轟きました。それは監獄から囚人が逃げ出したという合図でした。その後、二人の見知らぬ客が他の招客を先導して三番目の客を捕まえに出掛けたのですが……。

この三人の見知らぬ客は何者なのか? それが知りたくて読み入ってしまいました。

(088)逃 (百年文庫 88)

中古価格
¥560から
(2025/7/31 17:29時点)

\ 最新情報をチェック /

モバイルバージョンを終了