「ことば」について考えよう

百年文庫35「灰」中島敦 石川淳 島尾敏雄

「かめれおん日記」中島敦

生徒が持ってきたカメレオンの世話をしながら、自己の生き方を見つめる「私」の物語です。
「こんなはずではなかったのだが、一体、どうして、また、いつ頃から、こんな風になってしまったのだろう?」と、社会の現実と自身との隔たりに苦しみます。
喘息と不眠に苦しみながらも、鋭く自己を洞察している作品でした。

「明月珠」石川淳

1946年に発表された作品で、「前年に永井荷風の住まいが空襲で焼失するのを目撃したことがもとになっている。」と「人と作品」にありました。崖の上の径を通る老紳士、藕花先生が永井荷風ということでした。

物語には、著述業にありながら求職しなければならない「わたし」が自転車屋の少女を指南役に自転車の練習に取り組む様が描かれています。

空襲のサイレン、下町の空を覆う火炎、少女の尋常でない左足。月明かりに照らされて若返る空地の自転車。

戦時下にあるのに、どこか希望が感じられる作品でした。

「アスファルトと蜘蛛の子ら」島尾敏雄

私は、何者かの告知によって敗戦の日を知っていましたが、他にそれを伝えることはなく、憲兵将校のリンチに合った翌日に敗戦の日を迎えました。

私は死に場所を求めていました。しかし、射撃を受け無くした意識を取り戻したとき、こちら側に生き延びた生命の喜びに浸るのでした。
死に向かい合って生きている人間の心情をリアルに描いた作品です。

(035)灰 (百年文庫)

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