「私達」と「私たち」、どちらを使えばいいのか。公用文では?

以前、文章をチェックする仕事をしていたことがあります。
誤字脱字・不適切な表現以外は許容していましたが、中にどうしても見逃せない表記がいくつかありました。
そのうちの一つが、
「私達」「君達」「男達」などの「~達
という表記です。
「複数の人を表す『たち』は漢字ではなく平仮名を使うこと」と言ってきましたが、「なぜ平仮名なのか」という根拠が明確ではありません。
ということで、今回は、
「私達と「私たち」のどちらを使えばいいのか。
についてしっかり調べてお伝えしたいと思います。

「私達」「君達」「男達」と同じように表記する語に「友達」があります。
まずこの
「友達」
という語から説明していきます。

「とも」+「たち」から「ともだち」へ

「ともだち」という語は、本来は、「私たち」「君たち」「男たち」と同じように、「とも」に複数の人を表す接尾語の「たち」が結びついた語です。
しかし、現在では、「ともだちたち」などと表現されるように、単数であるか複数であるかに関係なく用いられています。
そのため、「ともだち」は、「とも」+「たち」というよりも、「ともだち」という一語で「友人」という意味で使われています。

「友達」から「友だち」へ

「ともだち」は、戦前の国語辞典ではすべて「友達」と表記されていました。
接尾語の「たち」に「達」を当てはめたものです。
しかし、昭和23年に告示された「当用漢字音訓表」では、「達」に「たち」という音が認められませんでした。
そのため、公用文では「友だち」と表記されるようになったのでした。

現在は「友達」

その後、昭和48年に告示された「当用漢字音訓表」の付表,昭和56年に告示された「常用漢字表」の付表に「友達」が加えられ、現在では「ともだち」は「友達」と表記することになっています。
次にあるように、1字1字を音訓で読めない漢字として「友達」が挙げられたのです。

「常用漢字表」(前書き)
13 「付表」には、いわゆる当て字や熟字訓など、主として1字1字の音訓としては挙げにくいものを語の形で掲げた。便宜上、その読み方を平仮名で示し、五十音順に並べた。
常用漢字表(付表)

  • とけい  時計
  • やおちょう  八百長
  • ともだち  友達
  • やおや  八百屋
  • なこうど  仲人
  • やまと  大和
  • なごり  名残
  • やよい  弥生

また、次の「常用漢字表(本表)」にあるとおり、「」という漢字は「タツ」とだけ読み、「タチ」とか「ダチ」とは読みません。
「友達」に限って(ともダチ)と読めるのです。

常用漢字表(本表)
漢字音訓備考
タイ風袋、郵袋足袋(たび)
ふくろ袋、紙袋
タツ達人、調達、伝達友達(ともだち)
タン鍛錬鍛冶(かじ)
きたえる鍛える、鍛え方

「私達」は「私たち」と書く

一方、「私たち」「君たち」「男たち」の「たち」は、複数の人を表す接尾語の意味をなくしていません。
したがって、
「私達」は「私たち」と書いた方がよい
ということになります。
しかし、常用漢字表の前書きに「漢字使⽤の⽬安を⽰すものである」と記されていることから、「~達」という表記が誤りであると断言はできません。

常用漢字表(前書き)
1 この表は、法令、公⽤⽂書、新聞、雑誌、放送など、⼀般の社会⽣活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使⽤の⽬安を⽰すものである。

「『~達』を使ってもいい」とは言ってないものの、どこか釈然としないところがあります。
さらに調べると、「公⽤⽂における漢字使⽤等について( 平成22年11⽉30⽇内閣訓令第1号)」に次のような記述がありました。

公用文における漢字使用等について
エ 次のような接尾語は、原則として、仮名で書く。

げ(惜しげもなく)
ども(私ども)
ぶる(偉ぶる)
み(弱み)
め(少なめ)

また、「用字・用語の表記例」「新訂 公用文の書き表し方の基準(資料集)」 (平成28年5月仙台市教育局教育人事部教育センター)には、

たち 「子供たち」子供達(×)

と記載されていました。
しかも、

◎ 以下の表記例は、公用文作成の基準として作成したものである。利用に際しては、原則として見出し語の表記に従うことが望ましい。

と但し書きがあります。
こうした表記例は、公的文書の統一を目指して各都道府県・研究機関・研究団体等が示しています。
以上のことから、
公用文では、複数の人を表す接尾語は原則として仮名で書く
ということが明確になったと判断します。

まとめ(ここを読めば、スッキリ分かる)

「私達」と「私たち」の使い方、ご理解いただけましたか?
さらにスッキリ分かっていただくためにまとめます。

まとめ
  1. 過去には「友だち」と書くこともあったが、現在では「友達」で定着している
  2. 「友達」の「達」は「友達」と書いたときだけ「ともダチ」と読むのであって、「達」は本来は「タツ」と読む。
  3. 上記にしたがって読むと、「私達」は「私タツ」、「君達」は「君タツ」になる。
  4. 国などが示す「公用文の書き表し方の基準」では、複数の人を表す接尾語は仮名で書くことを原則としている。
  5. したがって、公用文では「私たち」と書くのが望ましい。

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