「事」と「こと」の正しい使い分け。公用文の原則も。
文章をチェックする仕事をしていたとき、気になったものの一つに、「事」と「こと」の使い方がありました。
例えば
「くわしい事はあとで話します」
「自分のことは自分でしなさい」
は、何に基づいて「事」と「こと」を使い分けているのでしょうか?
ということで、
今回は、
「事」と「こと」の正しい使い分け
についてお伝えします。
目次
「事」と「こと」の使い分けの根拠
今回はまず、その根拠となる文書を明確にするところからはじめました。
それが、各行政機関に宛てた「公用文における漢字使⽤等について」(平成22年11⽉30⽇内閣訓令第1号)です。
これによると、「1 漢字使用について」の(2)の「キ」に、
キ 次のような語句を、( )の中に示した例のように用いるときは、原則として、仮名で書く。
例
ある(その点に問題がある。)
いる(ここに関係者がいる。)
こと(許可しないことがある。)
できる(だれでも利用ができる。)
とおり(次のとおりである。)
とき(事故のときは連絡する。)
ところ(現在のところ差し支えない。)
とも(説明するとともに意見を聞く。)
ない(欠点がない。)
なる(合計すると1万円になる。)
ほか(そのほか…、特別の場合を除くほか…)
もの(正しいものと認める。)
ゆえ(一部の反対のゆえにはかどらない。)
わけ(賛成するわけにはいかない。)
(以下省略)
とありました。
公用文において、「許可しないことがある。」のように用いるときには、仮名で「こと」と書くと明記されています。
それでは、「事」と「こと」の使い分けはどうすればいいのでしょうか?
「事」と「こと」の使い分けのポイント
「事」と「こと」の使い分けについて「日本語に強くなる本(省光社)」には次のような記載がありました。
「事」は、内容の具体的な場合に用いられる。
(例)「でき事」「事に当たる」
「こと」は、内容の抽象的な場合に用いられる。
(例)「所要の処置をすること」「許可しないことがある」「私こと」
(出典:「日本語に強くなる本(省光社)」
「事」と「こと」の使い分けのポイントは
「具体的な場合」と「抽象的な場合」
にあります。
そこで、大辞林第三版の「事」と「こと」の解説を「具体的な場合」と「抽象的な場合」に分けて整理してみました。
「事」は
「事柄・出来事・事態・事件・状態・経過・事情・わけ・重大事・大変な事態」など、
実体や内容がはっきりしている場合
に使います。
例文を読むと「事」の使い方がよく分かります。
「こと」には
実質的な意味はありません。
「~」に「こと」をつけることによって節を名詞化するのです。
こうした名詞を「形式名詞」といいます。
「こと」には実質的な意味がないので、その説明も抽象的になってしまいます。
しかし、例文は明確です。
「こと」の上には、修飾語がついて「~こと」という語になります。
「事」を使った例文
- 「事は重大だ」
- 「事の推移を見守る」
- 「事の起こり」
- 「どんなこと事が起こっても驚くな」
㋑ 物事の状態や経過。事情。わけ。
- 「事を分けて説明する」
- 「事と次第によっては許せない」
- 「くわしい事はあとで話します」
㋒ 重大事。大変な事態。
- 「もし彼に知られたら事だ」
- 「一朝事ある時は」
- 「事なきを得る」
「こと」を使った例文
㋐ ある物事に関連する事柄。
- 「自分のことは自分でしなさい」
- 「試験のことを話す」
- 「彼のことだからうまく処理するだろう」
㋑ ある人物が動作・心情の対象であることを示す。
- 「彼は彼女のことが好きらしい」
- 「私のことをほめてくれた」
㋒ 言葉が何かをさしていることを示す。
- 「タイガーとはトラのことをいう」
- 「今の話の某氏というのは遠藤さんのことだ」
㋓ 行為。仕業。
- 「自分のしたことを反省しなさい」
- 「今日はいいことをした」
㋔ 言葉の内容。言葉の意味。
- 「彼の言ったことを聞いたか」
- 「彼女は私の言うことがよく分からないらしい」
㋕ うわさ。伝聞。
- 「彼は来年留学するということだ」
㋖ 経験。体験。
- 「外国へ行ったことがある」
- 「それについて深く考えたことがない」
㋗ 習慣。しきたり。
- 「朝は六時に起きることにしている」
㋘ 必要。
- 「何も急ぐことはない」
- 「彼に同情することはない」
㋙ 「…ことが大事だ」の意を表す。
- 「合格したかったら勉強することだ」
- 「風邪気味の時は早く寝ることだ」
㋚ 「…という方針を決める(決心をする)」の意を表す。
- 「試してみることにしました」
㋛ 成り行き。結果。
- 「黙っていたということは、認めたことになる」
- 「この際真実を述べることが一番いい」
- 「英語を話すことができる」
- 「彼が有能なことを認めない人はいない」
- 「彼に裏切られたことは一生忘れられない」
- 「うまいことやれよ」
- 「長いこと留守にする」
- 「私ことこのたび左記に転居致しました」
- 「愚息こと」
- 「清水次郎長こと山本長五郎」
- 「はかりごと」
(出典元:「大辞林第三版」三省堂)
「将来のことを考える」
まとめ
今回は「事」と「こと」の使い分けについてお伝えしましたが、いかがでしたか?
漢字の「事」と平仮名の「こと」には、それぞれ違った場面での使い方があります。
「事」は、内容が具体的な場面で使います。
「こと」は、内容が抽象的な場面で使います。
「事」と「こと」の正しい使い分けが出来るようになるためには、より多くの例文に触れ、それを自分の文章に取り入れて行くことが大切です。
「祝いごと」
「考えごと」
「はかりごと」
「芸ごと」
「きれいごと」
は「事」ではないでしょうか?
https://kokugoryokuup.com/koto-difference/
こちらのサイトでは、
「争い事」
「遊び事」
などが「事」と表記されております。
どちらが正しいのか、あるいは違いがあるものなのか、教えていただけますと嬉しいです。
ご指摘ありがとうございました。
「朝日新聞の用語の手引き」と「明鏡国語辞典」で調べてみました。
祝い事(明鏡)、考え事(朝日)、芸事(明鏡)、綺麗事(明鏡)、となっていました。
以上は、当方の分類の間違いでした。訂正させていただきます。
ただ、「はかりごと」は「謀」と書き、朝日では「はかりごと」と平仮名表記になっていました。
ありがとうございました。