「時」と「とき」の正しい使い分け。公用文の原則も。
文章をチェックする仕事をしていたとき、気になったものの一つに、「時」と「とき」の使い方がありました。
例えば
「時の流れ」
「階段を上ったとき」
は、何に基づいて「時」と「とき」を使い分けているのでしょうか?
表記例の根拠を明らかにして、「時」と「とき」の正しい使い方を知りたい!
そんな思いから、今回は、
「時」と「とき」の正しい使い分け
についてお伝えすることにしました。
目次
「時」と「とき」の使い分け
この「時」と「とき」の使い分けの基準の根拠となる文書を見つけました。
それが、各行政機関に宛てた「公用文における漢字使⽤等について」(平成22年11⽉30⽇内閣訓令第1号)です。
これによると、「1 漢字使用について」の(2)の「キ」に、
キ 次のような語句を、( )の中に示した例のように用いるときは、原則として、仮名で書く。
例
ある(その点に問題がある。)
いる(ここに関係者がいる。)
こと(許可しないことがある。)
できる(だれでも利用ができる。)
とおり(次のとおりである。)
とき(事故のときは連絡する。)
ところ(現在のところ差し支えない。)
とも(説明するとともに意見を聞く。)
ない(欠点がない。)
なる(合計すると1万円になる。)
ほか(そのほか…、特別の場合を除くほか…)
もの(正しいものと認める。)
ゆえ(一部の反対のゆえにはかどらない。)
わけ(賛成するわけにはいかない。)
(以下省略)
(出典元:「公用文における漢字使⽤等について」内閣訓令第1号)
とありました。
「例のように用いるときは、原則として、仮名で書く。」とあり、「とき」の例として
「事故のときは連絡する。」
とあります。
「時」と「とき」の使い分けについて、もう少し詳しく知りたいと思い、「大辞林第三版」を引いてみましたが、明確な基準は記されていませんでした。
そこで、「日本語に強くなる本(省光社)」で調べてみると、
「時」は、時間・時刻・時期を示す場合
に用い、
「とき」は、不特定の時を表す場合
に用い、
仮定的条件が二つ重なる場合は、大きい条件に「場合」を、小さい条件には「とき」
を用いる。
(出典元:「日本語に強くなる本」省光社)
とありました。
この解説に基づいて「大辞林第三版」に記された内容を分類して、例文を集めてみました。
「時」とは
時間・時刻・時期を示す場合に用いる。
・時間。
- 「時の流れ」
- 「遊びに興じて時の経つのも忘れる」
- 「時が移る」
・昔の時間区分。
- 「子(ね)の時」
- 「丑(うし)の時」
・年代。時代。
- 「将軍綱吉の時」
・話題にしている時代
- 「時の首相」
- 「時の権力」
・季節。時候。時節。
- 「時は春」
・時勢。世の成り行き。
- 「時に従う」
・誰かにとって都合のよい時勢。
- 「時に遇(あ)う」
・時刻。
- 「時を告げる鐘」
・漠然ととらえられたある時点、または時期。
- 「時には酒を飲む」
- 「時には手を抜くことも必要だ」
- 「時として」
・何かをするのに都合のよい時機。好機。(普通名詞として時間そのものや時代を表すとき)
- 「時を待つ」
- 「時を見て実行する」
- 「時にかなう」
- 「時は金なり」
・大事な時期。
- 「危急存亡の時」
- 「実行の時が来た」
・ある特定の動作や状態が起こる時間。
- 「この前彼に会った時は元気だった」
- 「子供の時の思い出を話してくれた」
- 「満塁ホームランを打ったその時」
・ある状況を伴った時間を抽象的にいう。
- 「どんな服装がよいかは時と場所による」
- 「時に応じた判断が必要だ」
- 「時と場合」
・(「どき」の形で)時刻。時間帯。
- 「昼飯時」
- 「会社の引け時」
- 「たそがれ時」
・時節。季節。
- 「花見時」
- 「木(こ)の芽時」
- 「梅雨(つゆ)時」
・時機。機会。
- 「書き入れ時」
- 「売り時」
- 「引き上げ時」
「とき」とは
不特定の時を表す場合に用いる。
※仮定的条件が二つ重なる場合は、大きい条件に「場合」を、小さい条件には「とき」を用いる。
- 「余裕がないとき」
- 「階段を上ったとき」
- 「もし彼が不在のときには、どうするか」
- 「頭が痛いときは、この薬を飲むとよい」
- 「緊急事態のときには自衛隊が駆け付ける」
- 「行けないときは連絡する」
- 「いざというとき」
- 「もしも帰ってきたときは」
- 「困ったときの神頼み」
- 「こんな問題が出たとき」
- 「テレビを見るときは部屋を明るくしましょう」
「困ったときの神頼み」
まとめ
◇「時」を使うのは、
時間・時刻・時期を示す場合。
◇「とき」を使うのは、
- 「~のとき」
- 「~なとき」
- 「~したとき」
- 「~するとき」
と、仮定的条件がついているとき。
例文を参考にして、文章にすることで、「時」と「とき」の正しい使い分けを身に付けましょう。
【出典元】
「大辞林第三版」三省堂大辞林第三版」三省堂)
「日本語に強くなる本(省光社)」