「持つ」と「もつ」の使い分け。公用文では?
ウエブの質問サイトを見ると、
- 「自信をモツ」の「モツ」は、漢字の「持つ」なのか、平仮名の「もつ」なのか。
- 「勇気をモツ」の「モツ」は、漢字の「持つ」なのか、平仮名の「もつ」なのか。
「持つ」と「もつ」の使い分けに関する質問が見られます。
そして、それに対する回答には、
「実際に手に持っている場合は漢字を使い、それ以外の場合は平仮名を使う」
という記述が見られます。
また、それだけでなく、
「所有する」や「身に備わる」という場合にも漢字を使う
という記述もありました。
しかし、「持つ」なのか「もつ」なのかを明確に示す記述がなかなか見つかりません。
というわけで、今回は、
「持つ」と「もつ」の使い分け
についてお伝えしたいと思います。
目次
「漢字書き」と「平仮名書き」の分け方
そのような中、「実践テクニカルライティングセミナー」というサイトがありました。
そこに、
「事物の動き」を表す際は漢字書きにするのに対して、他の動詞などに付けて補助的に用いる際はひらがな書きにする動詞があります。また、動詞の意味によって漢字書きとひらがな書きを使い分ける場合があります。
(出典元:「実践テクニカルライティングセミナー」)
という記述がありました。
その中で、「持つ」と「もつ」については、次のように解説しています。
- 漢字書き → 手で持つ(人が所有・所持)
- ひらがな書き → 機能をもつ(事物が保有・実装)
これによると、
人が所有・所持しているのが「持つ」で、それ以外は「もつ」
ということになります。
そこで、「持つ」と「もつ」の例文を集め、上記の「漢字書き(人が所有・所持)」と「ひらがな書き(人が所有・所持以外)」に分けてみました。
(出典元:「大辞林第三版」三省堂)
漢字書き(人が所有・所持)
①保持する。
- 「右手で持つ」
- 「荷物を両手に持つ」
- 「かばんを持つ」
②つかむ。
- 「ほうきの柄を持つ」
- 「筆を持つ」
- 「綱の端を持って引っぱる」
③所持する。
- 「あいにく小銭を持っていない」
- 「傘を持って出かける」
④所有する。
- 「車を持つ」
- 「店を持つ」
- 「自分の家を持ちたい」
- 「財産を持つ」
⑤備えている。
- 「選挙権を持つ」
- 「車の免許を持っている」
⑥身に備えている。
- 「音楽の才能を持った少年」
- 「古い伝統を持った学校」
⑦負担する。
- 「送料はむこうが持つ」
- 「責任は私が持ちます」
⑧仕事・任務を引き受ける。
- 「医者の他にもう一つ仕事を持っている」
- 「役目を持つ」
- 「一年生を持つ(=担任スル)」
ひらがな書き(人が所有・所持以外)
⑨状態が維持される。消費・消耗し尽くされないで残る。
- 「この靴は三年ももった」
- 「生物は三日ともたない」
- 「働きづめでは体がもたない」
- 「人の言葉をいちいちも気にしていては身がもたない」
⑩支える。
- 「肩をもつ」
- 「あの店は奥さんでもっている」
「持つ」/「もつ」
⑪気持ち・感情など。
- 「自信を-つ」
- 「誇りを-つ」
- 「恨みを-つ」
- 「何の疑いも-たなかった」
- 「希望を-つ」
- 「勇気を-つ」
- 「関心を-つ」
- 「考えを-つ」
- 「課題を-つ」
- 「知識を-つ」
この使い分けで、
「⑪気持ち・感情など」は、「人が所有するもの」
とも捉えられます。
「持つ」なのか「もつ」なのかはっきりしないので「持つ」/「もつ」に分類しました。
公用文での「持つ」と「もつ」の使い分け
公用文での「持つ」と「もつ」の使い分けについて見てみました。
「持つ」と「もつ」の使い分けについては、各公共機関や研究機関の「用語用語例」などで取り上げられています。
例えば、千葉市教育センターでは、募集している研究論文を書く際の表記の目安のために「用字用語例」を作成しています。
それには、
(知識を)持つ(公用文)・もつ
とありました。
また、佐賀県教育センターの「論文表記上の留意点 (語例集)」には、
見出し 表記 備考 もつ もつ 責任をもつ 課題をもつ 持つ 荷物を持つ
とありました。
「奈良県国語教育研究会における文書等を作成する際の表記・用語例」では、
使用していきたい表記 使用を避ける表記(△…許容) もつ ○荷物を持つ ×荷物をもつ もつ ○関心をもつ、考え方をもつ ×関心を持つ、考え方を持つ
と記していました。
三者に共通しているのは、
「知識」「課題」「関心」「考え方」などの場合は「もつ」を使う
ということです。
これは、前述の「⑪気持ち・感情など」にあたります。
さらに、北海道小学校長会の道小研修部「用字用語例」では、
見出し 表記 用例など ※ もつ 持つ かばんを持つ、財産を持つ、才能を持つ もつ もつ 役目をもつ、希望をもつ、勇気をもつ
とし、「(※)…表記で示した以外の表記の仕方もある」と補足しています。
「公用文の文章の書き方 :よくある修正」では、公用文の書き方として、
- 持つ→もつ(手で”持つ”以外の場合)
としています。
以上のことから、公用文での「持つ」と「もつ」の使い分けは、
各公共機関や研究機関などが明確に示している
ことが分かります。
しかし、その根拠となる明確な基準を見つけることはできませんでした。
まとめ
- 各公共機関や研究機関などでは、公用文の用字用語例を明示しています。
- 「持つ」と「もつ」の使い分けの基準は、各機関によって違いがあります。
- 公用文では「気持ち・感情など」をモツ場合は「もつ」を使っています。
公用文で「持つ」と「もつ」を使い分けたいときには、各機関の用字用語例を参考にするのが一番です。
私文書においては、統一された基準はないので、個々の解釈で自分の文章にふさわしい使い分けをすることが大切かと思います。
※備考
記載事項の誤り・不備等がありましたら、管理人までお知らせください。