「一人一人」「一人ひとり」「ひとりひとり」 どう書けばよいのか? 公用文では。
文章をチェックする仕事の中で、「一人ひとり」「一人一人」の表記が印象に残っています。
その表記の基準は、最初「一人ひとり」だったように記憶しているのですが、それが、いつからか「一人一人」となったのです。
現行の教育基本法や学習指導要領の中で「一人一人」を使っていますから、公用文では「一人一人」と書いて間違いありませんが、あの頃なぜ「一人ひとり」と書いたのかが気になります。
そこで今回は、「ひとりひとり」の表記について調べてみることにしました。
目次
「一人ひとり」から「一人一人」へ
はじめに「日本語に強くなる本(省光社)」の「『一人一人』か『一人ひとり』か」から引用します。
「文部省の用字用語例」では、「ひとりひとり」は「一人一人」と漢字で書くことになっている。
「文部省の用字用語例」とは、「文部科学省用字用語例」(平成23.3)のことです。
「文部科学省用字用語例」(平成23.3)では、「常用漢字表」の音訓に従って、「一人一人」と書くようになっています。
しかし、昭和23年の内閣告示「当用漢字音訓表」では「ひとり」を「一人」と漢字で書くことができなかった。
そこで、当時の「文部省の用字用語例」も「ひとり」と仮名で書くことになっていた。
昭和28年の「文部省用字用語例」では「ひとり」となっています。
その後、昭和48年に改定された「当用漢字音訓表」の付表によって、「一人」と書けるようになったのです。
それが昭和56年の内閣告示「常用漢字表」にも受け継がれ、「一人」と書いているのです。
その例から、日本新聞協会『新聞用語集』(昭和56)では「一人ひとり」と書くようにしている。
これは「一人一人」にすると、前後に漢字がきた場合、漢字ばかりがつづく感じになることの配慮とも考えられる。
「なるほど!」と思いました。
昭和56年は筆者が教育現場に足を踏み入れた年です。
この頃の現場では「一人ひとり」を表記の基準にしていたものと思われます。
以上、現状は「一人一人・一人ひとり・ひとりひとり」の三様の書き方がされているが、公用文、学校教科書に使われる「一人一人」がよい。
平成23年3月の「文部科学省用字用語例」に「一人一人」と漢字で書くことが示されています。
筆者が「一人一人」と書くようになったのは、この頃だったのでしょうか?
公用文、学校教科書には現在も「一人一人」が使われています。
(以上 出典元:「日本語に強くなる本」省光社)
(※黄色マーカーは筆者)
「一人一人」とは
「ひとりひとり」を辞書で引く
「岩波国語辞典 第五版」で「ひとりひとり」を引きました。
ひとりひとり【<一人一人>】それぞれの人。人ごと。めいめい。「性格というものは―(が)異なる」「弁当を―に配る」▽「ひとりびとり」とも言う。
(以上 出典元:「岩波国語辞典 第五版」岩波書店)
(※黄色マーカーは筆者)
熟字訓<一人>
熟字訓である<一人>について、常用漢字表(平成22年11月30日内閣告示)の前書きと付表に次のように書かれています。
前書き
13 「付表」には,いわゆる当て字や熟字訓など,主として1字1字の音訓としては 挙げにくいものを語の形で掲げた。便宜上,その読み方を平仮名で示し,五十音 順に並べた。
付表
すもう 相撲 ひとり 一人 ぞうり 草履 ひより 日和 だし 山車 ふたり 二人
(出典元:文化庁HP 「常用漢字表」平成22年内閣告示第2号)
(※筆者による常用漢字表からの抜粋 黄色マーカーは筆者)
このように「ひとり」を「一人」と書けるようになったのは、前述の昭和48年に改定された「当用漢字音訓表」の付表に記載されてからです。
辞書の表示からも、「ひとりひとり」と「一人一人」の変遷を読み取ることができました。
教育基本法に見られる「一人一人」
教育基本法は平成18年に改正されており、改正前、昭和22年の教育基本法にはなかった条文が新設されています。
それが、
(生涯学習の理念)
第三条 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送る ことができるよう、その生涯に わたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生 かすことのできる社会の実現が 図られなければならない。
(※黄色マーカーは筆者)
です。
このことからすると、教育現場で「一人ひとり」から「一人一人」に移行したのは平成18年以降ではないかと思われます。
「ひとりひとり」の表記の基準
OKWAVEに、新聞社等の「ひとりひとり」の表記の基準について記載がありましたので、一部引用させていただきます。
時事通信『用字用語ブック』(4版)
ひとりひとり
=一人ひとり〈各人〉~ 一人ひとりの個性を生かす
=一人一人〈人数〉~ 一人一人呼び出す
共同通信『記者ハンドブック』(9版)
ひとりひとり
一人一人〔人数〕 一人一人呼び出す
一人ひとり〔各人〕 一人ひとりの個性を生かす
共同通信『記者ハンドブック』(10版)
ひとりひとり・ひとりびとり
一人一人 一人一人呼び出す、一人一人の個性を生かす
朝日新聞『朝日新聞の用語の手引』(’05-’06年版)(’81年版、’97年版、’02年版も同様)
ひとり
=(慣)一人〔人数に重点〕 一人勝ち、一人口は食えない、一人芝居、一人旅、一人(っ)子、一人天下、一人ひとり<または一人一人>、一人舞台、一人息子、一人娘
=独り〔孤独、独断、独占、単独〕 例略
毎日新聞『毎日新聞用語集』(2002年)
ひとり (慣)一人 …「ひとりひとり」は記載なし
読売新聞『読売新聞用字用語の手引』(2005年)
ひとり …「ひとりひとり」は記載なし
NHK『新 用字用語事典』(2版、3版)
ひとりひとり <一人一人> …引用注:<>用いてよい許容の表記
新聞社等では 「一人一人」が主流ですが、「一人ひとり」「ひとりひとり」も使われているようです。
まとめ
今回のテーマを調べてみて、言葉の生成には、いくつもの変遷が伴っていることを実感しました。
あえてポイントをまとめるとすれば、
- 公用文では「一人一人」を使う。
- それ以外の場面では、「一人一人」「一人ひとり」「ひとりひとり」が選択できる。
ということでしょうか。
新しい情報が入り次第、内容を書き換えていきたいと思います。