「うけいれる」「うけいれ」「うけいれ態勢」、送り仮名の正しい使い方。公用文の原則も。
「救急搬送の受け入れ態勢」「観光客の受け入れ態勢」などで使う「受け入れ態勢」についてですが、たまに「受入れ態勢」「受入態勢」という表記も見られます。
「受け入れ態勢」「受入れ態勢」「受入態勢」。どれが正しい送り仮名なのでしょう?
そこで今回は、「うけいれる」「うけいれ」「うけいれ態勢」の送り仮名について調べてみました。
目次
複合の語の送り仮名
このことについて「日本語の強くなる本」(省光社)には、次のようにかかれてあります。
「送り仮名の付け方」複合の語、通則6の本則を適用すれば、この語は「受ける」と「入れる」の複合なので、両方に送り仮名を付けた「受け入れる」となる。
(出典元:「日本語の強くなる本」省光社)
「送り仮名の付け方」は、昭和48年の内閣告示で定められ、平成22年に一部改正されています。
その「複合の語、通則6の本則」には、
本則 複合の語(通則7を適用する語を除く。)の送り仮名は、その複合の語を書き表す漢字のそれぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による。
[出典元:文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)]
とあります。
つまり、
「受ける」+「入れる」=「受け入れる」
ということです。
送り仮名を省く
さらに「日本語の強くなる本」には次のようにあります。
別に前の送り仮名を省いて「受入れる」とするのも許容されている。
この名詞としての書き方は、本則では「受け入れ」、許容では「受入れ」である。
さらに「態勢」と複合すると、本則は「受け入れ態勢」で、「受入れ態勢・受入態勢」が許容された形である。
(出典元:「日本語の強くなる本」省光社)
このことについては、「送り仮名の付け方」複合の語、通則6の許容に、
許容 読み間違えるおそれのない場合は、次の( )の中に示すように、送り仮名を省くことができる。
〔例〕 書き抜く(書抜く) 申し込む(申込む) 打ち合わせる(打ち合せる・打合せる) 向かい合わせる(向い合せる) 聞き苦しい(聞苦しい) 待ち遠しい(待遠しい)
(中略)
抜け駆け(抜駆け) 暮らし向き(暮し向き) 売り上げ(売上げ・売上) 取り扱い(取扱い・取扱) 乗り換え(乗換え・乗換) 引き換え(引換え・引換) 申し込み(申込み・申込) 移り変わり(移り変り)
(中略)
立ち居振る舞い(立ち居振舞い・立ち居振舞・立居振舞) 呼び出し電話(呼出し電話・呼出電話)
(後略)
[出典元:文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)]
この「許容」の〔例〕申し込む(申込む)を適用すれば、受け入れる(受入れる)となり、「受け入れる」は「受入れる」でもよいということになります。
さらに、名詞形としての書き方も、〔例〕申し込み(申込み・申込)を適用すれば、受け入れ(受入れ・受入)となり、「受け入れ」は「受入れ」「受入」でもよいということになります。
そして、「受け入れ態勢」については、〔例〕呼び出し電話(呼出し電話・呼出電話)を適用すれば、受け入れ態勢(受入れ態勢・受入態勢)となり、「受け入れ態勢」は「受入れ態勢」「受入態勢」でもよいことになります。
送り仮名を付けない
さらに、「日本語の強くなる本」では、慣用により送り仮名を付けない例も取り上げています。
なお、法令用語「昭和56年10月1日付け内閣法制次長から各省庁事務次官あて文書『法令における漢字使用等について』」では、通則7を適用した語(慣用で送り仮名をつけない)として「受入額・受入先・受入年月日」がある。
(出典元:「日本語の強くなる本」省光社)
この昭和56年10月1日付け文書は、平成22年11月30日付けで廃止し、新たに法令における漢字使用等について定めています。
その「法令における漢字使用等について」には、次のようにあります。
法令における漢字使用等について
2 送り仮名の付け方について
(2)複合の語
イ 活用のない語で慣用が固定していると認められる次の例に示すような語については、「送り仮名の付け方」の本文の通則7により、送り仮名を付けない。
【例】
合図 合服 合間 預入金 編上靴 植木 (進退)伺 浮袋 浮世絵 受入額 受入先 受入年月日
(後略)
[出典元:文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)]
本文の通則7とは、
送り仮名の付け方 複合の語 通則7
複合の語のうち、次のような名詞は、慣用に従って、送り仮名を付けない。
〔例〕
(1) 特定の領域の語で、慣用が固定していると認められるもの。
ウ その他。
・・・・・・《代金》引換 振出《人》 待合《室》 見積《書》 申込《書》
[出典元:文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)]
です。
送り仮名の付け方のよりどころ
ここまで、送り仮名の付け方についてお伝えしてきましたが、内閣告示「送り仮名の付け方」の前書きには、「送り仮名の付け方」の活用の仕方が記されているように思います。
前書き
一 この「送り仮名の付け方」は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など、一般の社会生活において、「常用漢字表」の音訓によつて現代の国語を書き表す場合の送り仮名の付け方のよりどころを示すものである。
二 この「送り仮名の付け方」は、科学・技術・芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。
三 この「送り仮名の付け方」は、漢字を記号的に用いたり、表に記入したりする場合や、固有名詞を書き表す場合を対象としていない。
[出典元:文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)]
つまり、国では、この「送り仮名の付け方」をよりどころとして示しているけれど、各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。ということからすれば、送り仮名は決して一律なものではないということが理解できます。
新聞社等では、内閣告示「送り仮名の付け方」に基づいてそれぞれに表記の基準を示しています。
【毎日新聞】
「改定送り仮名の付け方」の本則(例外を含む)に準拠し、”許容”は採らない。
うけいれ 受け入れ
うけいれがわ 受け入れ側
うけいれたいせい 受け入れ態勢
(出典元:「毎日新聞用語集」1996年版)
【朝日新聞】
「改定送り仮名の付け方」で「本則」と「許容」の両様の例が示されているものは、「本則」の例に従う。
うけ…受け入れ(側・態勢)
(出典元:「朝日新聞の用語の手引き」2015年版)
まとめ
「うけいれる」「うけいれ」「うけいれ態勢」の送り仮名についてお伝えしてきました。
今回のポイントをまとめます。
○「うけいれる」
- 「うけいれる」は、「受ける」と「入れる」の複合語「受け入れる」である。
- 「受入れる」は許容される。
○「うけいれ」
- 「うけいれ」は、「受け入れる」の名詞形「受け入れ」である。
- 「受入れ」「受入」は許容される。
○「うけいれ態勢」
- 「うけいれ態勢」は「受ける」と「入れる」と「態勢」の複合語「受け入れ態勢」である。
- 「受入れ態勢」「受入態勢」は許容される。
○法令では、「受入額」「受入先」「受入年月日」を使う。
※法令以外では、「受け入れる」「受け入れ」「受け入れ態勢」と書いていれば間違いありません。