「十分」と「充分」に意味の違いはあるのか。公用文では?

「交通事故に遭わないように十分に気を付けください」と書いてから、「あれ、こういうときは、『充分』と書いた方がいいのでは?」と思ったことがありました。

「気を付ける」という心情的な言葉に添える「じゅうぶん」は「充分」の方が良いのではないか、「十分」だと数量的なイメージになるのでは、と感じたのです。

「十分」と「充分」に意味の違いはあるのでしょうか? その使い分けはあるのでしょうか?

今回は、そういった疑問について考えてみたいと思います。

 

 

 

 

「十分」なのか、「充分」なのか

まずは、「日本語大辞典(講談社)」で「じゅうぶん」を引いてみました。

じゅうぶん【十分・充分】

みち足りるさま。不足のないさま。

「-いただきました。」「-気をつけてください。」

(出典元:「日本語大辞典」講談社)

【 】の中には一般に広く用いられるものが入り、表記が二つ以上ある場合は「・」でつないで並記されるので、「じゅうぶん」には「十分」と「充分」の二つの表記があり、意味も同じであることが分かります。

ところが、文部科学省用字用語例では、「じゅうぶん」は「十分」と書き表すことになっています。これは、公用文では「十分」と書くのが標準であることを示しています。

見出し 表外漢字・表外音訓等 書き表し方 備考
じゅうぶん 充分 十分 十分配慮する、不十分である

出典元:文化庁新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)

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また、「朝日新聞の用語の手引き」や「毎日新聞用語集」を見ても、「じゅうぶん」は「十分」と統一されています。

一方、日本国憲法第37条では「充分」が使われています。

37条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

○2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

これはいったいどういうことでしょう?

文化庁の資料「第5期国語審議会第2部会(昭和34.5.19~昭和36.2.14)」の「語形の『ゆれ』の問題 漢字表記の『ゆれ』について(報告)3」に次の記載がありました。

「十分」と「充分」――いずれも普通に行なわれている。憲法では「充分」を使っている。本来は「十分」であって、「充分」はあて字である。また、「十」のほうが字画も少なく、教育漢字でもあり、「充」はそうでないことなどからも、漢字を使うとしたら「十分」を採るべきであろう。しかしながら、最近では、この語はかな書きにする傾向がある。
 公用文や「文部省刊行物表記の基準」などでは、かな書きを採り、「十分」と書くことを許容している。

出典元:文化庁「語形の『ゆれ』の問題 漢字表記の『ゆれ』について(報告)3」

「じゅうぶん」は本来「十分」であり「充分」は当て字、「十」は画数が少なく教育漢字でもあるので「十分」を採るべき、という見解が現在の文部科学省用字用語例での取り扱いにつながっているのでしょうか?

いずれにしても、公用文や新聞では「十分」を使っていることは確かなことです。

そもそも「十分」とは「10を等分すること」で「十分(ぶん)の一」などと使います。

「一分(ぶ)」とは「十分(ぶん)の一」のことで、「三分(ぶ)」は「三分(ぶん)の一」のことです。

「今日の桜はまだ三分咲きです」とか「五分咲き」「八分咲き」と言いますが、それが「十分」になったら満開です。

この「十分(ぶ)」が「十分(ぶん)」なのです。

つまり、「十分」とは「10割」「100%」のことなんですね。だから「満ち足りている」という意味になる。

(参考:「ナッシーの語源帳」)

では、「充分」の「充」はどこからきたのでしょう?

「充」を日本語大辞典で引くと、

ジュウ【充】

①あてる。あてがう。ふさぐ。

②みたす。みちる。一杯になる。

(出典元:「日本語大辞典」講談社)

とあります。

「充」の意味を知ると、「十分」の意味「みち足りるさま」の「みちる」に「充」を当てたことが分かります。

「十分」と「充分」の使い分け

前述したとおり、公用文や新聞では「十分」を使っているので、個人的には「十分」を使いたいと思っていますが、

もしも、「十分」と「充分」を使い分けるとしたら、どう分けたらいいのか考えました。

「十分」の使い方

「十分」の「十」は数を表しているので、量的(数値的・物理的)に満たされている場合には「十分」を使います。

  • 「十分に整う」
  • 「まだ十分使える」
  • 「隣町まで5キロは十分ある」
  • 「十分な栄養をとる」
  • 「金は十分持っている」
  • 「二人で住むには十分だ」
  • 「十分に注意する」(精神的な意味では「充分に注意する」)
  • 「十分気をつけてください」(精神的な意味では「充分気をつけてください」)
補足▼

「十分寝た」「時間は十分ある」などの場合、「10分寝た」「時間は10分ある」とも読めます。このようなときは、別の言葉に置き換えるなどの調整が必要です。

「充分」の使い方

「充分」の「充」は「満ちている」という意味なので、精神的に満たされている場合には「充分」を使います。

  • 「充分な休養」
  • 「充分楽しむ」
  • 「充分に話し合う」 
  • 「もう充分いただきました」(量的な意味では「もう十分いただきました」)

まとめ

○公用文・新聞等では「十分」を使っている。

○公用文・新聞等以外では「十分」と「充分」を使い分けることができる。

  • 「十分」→量的に満たされている場合
  • 「充分」→精神的に満たされている場合

個人的な文章であれば必要に応じて「十分」と「充分」を使うことができますが、特別なこだわりがなければ、「十分」を使うのが無難なようです。

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