「上る」「登る」「昇る」の違いと使い分け 「坂を上る」と「山を登る」
「坂をのぼる」と書くとき、「上る」なのか「登る」なのか迷うことがあります。それは、「坂をのぼる」という行為が「山にのぼる」行為と似ているからです。
そこで今回は、「上る」「登る」「昇る」の意味の違いと使い分けについて調べることにしました。
目次
「上る」「登る」「昇る」の意味
はじめに「日本語大辞典(講談社)」で「上る」「登る」「昇る」を引いてみました。
「上る」の意味
①㋐上へ行く。「階段を上る」
㋑さかのぼる。「川を上る」
㋒首府へ行く。「都へ上る」
②陸にあがる。「船から陸に上る」
③ある量になる。…にもなる。「その数、100万に上る」
④出される。「うわさに上る」「議事に上る」
(出典元:「日本語大辞典」講談社)
「登る」の意味
いちだんと高い場所に上がる。「山に登る」
(出典元:「日本語大辞典」講談社)
「昇る」の意味
①高くあがる。「天に昇る」
②地位が進む。「位が昇る」
③太陽が現れる。「日が昇る」
(出典元:「日本語大辞典」講談社)
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つまり、「階段」のように上にあがっていくところをのぼる場合は「上る」と書き、「山」のようにいちだんと高い場所にのぼる場合は「登る」と書くことが分かります。
また、「昇る」には、日・月・雲などが天に昇るように勢いよく上へあがる意味があります。
「上る」「登る」「昇る」の使い分け
文部科学省では「文部科学省用事用語例」において、一般に留意を要する用事用語の標準を示しています。
見出し | 表外漢字・表外音訓等 | 書き表し方 | 備考 |
のぼる | 上る 登る 昇る | 川を上る、一億円に上る損害 山登り、崖を登る、演壇に登る 朝日が昇る、高い地位に昇る |
〔出典元:「文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)」〕
また、国語審議会漢字部会が作成した「『異字同訓』の漢字の用法」には次のように記載されています。
(これは、総会として審議・議決したものではないので答申には含まれていませんが、各方面で利用されています。)
「異字同訓」の漢字の用法
のぼる
上る ― 水銀柱が上る。損害が一億円に上る。川を上る。坂を上る。上り列車。
登る ― 山に登る。木に登る。演壇に登る。
昇る ― 日が昇(上)る。天に昇(上)る。
〔出典元:「文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)」〕
以上の漢字の意味や用法をから、「坂」は「上る」で「山」は「登る」であることが分かります。
「山」のようにいちだんと高い場所に上がる場合は「登る」と書くということが、「上る」と「登る」の使い分けのポイントになりそうです。
「坂を上る」「山に登る」については、「日本語に強くなる本(省光社)」に解説があります。
坂道のようにだんだんに高度を上げていくようなところをふつうにのぼる場合には「上る」と書き、急斜面の山道を努力して、あるいは労力を費やしてのぼる場合には「登る」と書くのが一般的である。
以上から、同じ坂道でも、健康な若者の場合は「上る」でも、病弱な老人の場合はその感じ方によって「登る」としても誤りとはいえない。
(出典元:「日本語に強くなる本」省光社」
ということは、普通「階段をのぼる」は「階段を上る」と書きますが、階段が急で労力を使ってよじ登るほどであれば、「階段を登る」と書いても間違いではないということになります。
また、「天国への階段をのぼる」の場合は、「天に昇る」という用例からして「天国への階段を昇る」となります。
高層ビルの階段はどうでしょう。
高層ビルは「山」のようにいちだんと高い場所ですし、それを階段でのぼるとすれば間違いなく「高層ビルの階段を登る」であることが分かります。
そして、もしその高層ビルをエレベーターでのぼるとすれば、「高層ビルをエレベーターで昇る」となります。
「昇る」は「昇降」という熟語に使われているように、「のぼりおり」の意味があり、機械を使ってあがるときに使っているのです。
次に、これまでの解説等を基に「上る」「登る」「昇る」の一般的な用例を集めてみました。
「上る」の用例
- 水銀柱が上る。
- 損害が一億円に上る。
- 川を上る。
- 坂を上る。
- 上り列車。
- 都に上る。
- 江戸へ上る。
- 話題に上る。
- 議題に上る。
- 食卓に上る。
- 頭に血が上る。
「登る」の用例
- 山に登る。
- 木によじ登る。
- 演壇に登る。
- マウンドに登る。
- ビルを登る。
- 塔に登る。
- ロープを登る。
「昇る」の用例
- 日が昇る。
- 月が昇る。
- 天に昇る。
- 煙が昇る。
- 神殿に昇る。
- エレベーターで昇る。
- エスカレーターで昇る。
- 気球が昇る。
- 大臣の位に昇る。
まとめ
「坂を上る」と「山を登る」の違い
- 「坂」…だんだんに高度を上げていくようなところを普通にのぼる場合…「上る」
- 「山」…急斜面を努力して、あるいは労力を費やしてのぼる場合…「登る」
「上る」と「登る」の使い分けには頭を悩まします。迷ったときは、平仮名で「のぼる」と書いてもよいのですが、意味の分かりにくさと平仮名が続くことによる読みにくさがあります。