「手当」と「手当て」の使い分け 「○○手当」に送り仮名が付かない理由
昨今、「休業手当」という言葉をよく見聞きしますが、「休業手当」などの「手当」に送り仮名がないのはなぜでしょう。
「当てる」は「てる」と送るのに「手当」には送り仮名が付かないのです。
そこで、今回は「手当」に送り仮名が付かない理由を探ってみたいと思います。
「休業手当」とは
そもそも「休業手当」とはどのようなものなのでしょう。
「休業手当」については、「労働基準法第26条」に、
(休業手当) 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、 その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
と記されています。
「休業手当」とは、会社側や事業主の責任で労働者を休業させた場合に、該当の労働者に対して支給する手当のことなのです。
「手当」とは
さて、この「休業手当」の「手当」ですが、「日本語大辞典(講談社)」で引いてみると、次のようにあります。
て-あて【手当(て)】
⑴①用意。準備。「資金の-」
②特定の条件を満たす労働者に基本給に加えて支給される賃金。家族手当・通勤手当・住宅手当・寒冷地手当・役職手当など。
③心づけ
⑵世話。看病。「応急-」
(出典元:「日本語大辞典」講談社)
ここで注目したいのが【手当(て)】の送り仮名の(て)です。
本辞典の「この辞典の使い方」には、
五 送り仮名
1 送り仮名は、昭和48年内閣告示『送り仮名の付け方』の通則に基づき、表示しました。送り仮名を省くことのできる語は、( )の中に、小さく示しました。
(出典元:「日本語大辞典」講談社)
つまり、「手当(て)」の (て)は省いてもよいということです。
ここまでのところで、休業手当も家族手当・通勤手当……も送り仮名を付けていない理由が分かりました。
ところで、「昭和48年内閣告示『送り仮名の付け方』の通則」とはどのようなものなのでしょう。
「手当て」の送り仮名のついては「通則7」で示されています。
通則7
複合の語のうち、次のような名詞は、慣用に従って、送り仮名を付けない。
〔例〕
⑴ 特定の領域の語で、慣用が固定していると認められるもの。
ア 地位・身分・役職等の名
関取 頭取 取締役 事務取扱
イ 工芸品の名に用いられた「織」、「染」、「塗」等。
⦅博多⦆織、⦅型絵⦆染、⦅春慶⦆塗、⦅鎌倉⦆彫、⦅備前⦆焼
ウ その他。
書留 気付 切手 消印 小包 振替 切符 踏切 請負 売値 仲買 歩合 両替 割引 組合 手当
(以下省略)
〔出典元:新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)文化庁〕
こうした〔例〕は「法令における漢字使用等について」にも挙げられています。
2送り仮名の付け方について
(2)複合の語
イ 活用のない語で慣用が固定していると認められる次の例に示すような語については、「送り仮名の付け方」の本文の通則7により、送り仮名を付けない。
【例】 手当〔出典元:新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)文化庁〕
「手当」は「特定の領域の語」つまり「法令において使われる語」で慣用が固定していると認められているということです。
「手当」の「当」は常用漢字表に
漢字 | 音訓 | 例 | 備考 |
当(當) | トウ あたる あてる | 当惑、当然、妥当 当たる、当たり 当てる、当て |
〔出典元:新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)文化庁〕
と示されており、それに従って書けば「手当て」なるところですが、「送り仮名の付け方 通則7」に基づいて、送り仮名を省略して「手当」と書いているのです。
したがって、法令用語として書くと「手当」ですが、それ以外の場合は「手当て」と送り仮名を付けます。
「文部科学省用字用語例」は、そのことを分かりやすく示しています。
見出し | 表外漢字・表外音訓等 | 書き表し方 | 備考 |
てあて | 手当 手当て | 手当を支給する 傷の手当て、手当てを行う |
〔出典元:新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)文化庁〕
つまり、「手当」は、「家族手当」「通勤手当」などの報酬・基本給以外の賃金であるのに対して、「手当て」は、「応急手当て」「傷の手当て」「資金・財源の手当て」などの治療・対策だということです。
「傷の手当て」などの治療には「手を当てる」という動詞の意識が残っています。
(参考:「朝日新聞の用語の手引き」朝日新聞出版、「日本語に強くなる本」省光社)
まとめ
今回のポイントをまとめます。
「手当」とは
- 特定の条件を満たす労働者に基本給に加えて支給される賃金。(休業手当・家族手当・通勤手当・住宅手当・寒冷地手当・役職手当など。)
「手当て」とは
- 対策。用意。準備。(資金の手当て・財源の手当て など。)
- 治療。世話。看病。(傷の手当て・応急手当て など。)