「表題」と「標題」の意味の違いと使い方
本の紹介文を書いているときのことです。
「ひょうだい『斑鳩物語』は……」と書こうとしたとき、「表題」か「標題」か迷いました。
どうして迷ったかというと、仕事で文書を作るとき、「標題の件について次にように報告いたします」と「標題」を使っていたからです。
「本のタイトルも標題?」と迷ったのです。
目次
「表題」と「標題」の違い
そこで、「岩波国語辞典」を引いてみました。
ひょうだい【表題・標題】
①本の表紙に記された題目。書名。
②演説・談話・芸術作品・演劇などの題目。
(出典元:「岩波国語辞典第五版」)
【表題・標題】という表記は、「ひょうだい」には「表題」と「標題」の二つの表記形があるということを表しています。
つまり、どちらを使ってもよいということです。
さらに、「朝日新聞の用語の手引き」を引いてみると、
ひょうだい(標題)→表題
〈注〉「標題音楽」は別
(出典元:「朝日新聞の用語の手引き」朝日新聞出版)
とあります。
凡例に「慣用度がより高いと認められる場合は矢印の下の語を使う」とあるので「表題」を使うことになります。
また、「毎日新聞用語集」には、
ひょうだい(標題)→表題〔標題音楽〈標題を付した楽曲〉は別〕
(出典元:「毎日新聞用語集」毎日新聞社)
使用上の手引に「カッコ内表記は二以上の表記があって慣用度の低いと認められるもので、原則として使わない表記」とあります。
つまり、両社とも「標題」は使わずに「表題」を使うということです。
新聞社では「本のひょうだい」は「本の表題」と書いているのです。
それでは、文書の「ひょうだいの件」の「ひょうだい」はどう書けばよいのでしょうか。
ネット上に「標題とは文書の見出しや件名のこと」「正式な文書では、全体の大きなタイトルを表題と言い、その下の各章のタイトルを標題と言う場合もある」といった内容の記述がありました。(こうした記述の根拠を探しています。お分かりの方、教えてください。)
「標題音楽」の「標題」とは
ところで、前述の「標題音楽」について調べてみると、
YAMAHAのホームページの「標題音楽とは」に次のようにありました。
ベルリオーズ(H. Berlioz, 1803-69)が1830年に書いた《幻想交響曲》は5楽章から成り、その各楽章には、《夢、情熱》《舞踏会》《野原の情景》《刑場への行進》《悪魔の祝日の夜の夢》といった標題がつけられています。
つまり、「表題」が《幻想交響曲》で、各楽章の「標題」が《夢、情熱》《舞踏会》《野原の情景》《刑場への行進》《悪魔の祝日の夜の夢》ということになります。
この点は、文書における「表題」と「標題」の関係と一致しています。
「表記」と「標記」の違い
「表題」と「標題」と同じように「表」と「標」を使った語に「表記」と「標記」があります。
ここからは、「表記」と「標記」について調べてみたいと思います。
「表記」と「標記」について「岩波国語辞典」を引くと、
ひょうき【表記】
①おもてに書くこと。その書かれたもの。「表記の住所へ」
②字や記号で書き表すこと。「表記法」
(出典元:「岩波国語辞典第五版」)
ひょうき【標記】
①めじるしとする符号。また、その符号をつけること。
②標題として書くこと。また、そのことがら。「標記の件につき」
とありました。
(出典元:「岩波国語辞典第五版」)
また、文部科学省用事用語例には次のようにありました。
見出し | 表外漢字・表外音訓等 | 書き表し方 | 備考 |
ひょうき | 表記 標記 | 表記の金額、国語の表記 標記のことについて(件名のときに使う。) |
〔出典元:公用文の書き表し方の基準(資料集)文化庁〕
つまり、
- 「表記」とは「文字などで書き表すこと。その書き表したもの」
- 「標記」とは「目印や標題として書くこと。その書き表した目印・標題」
ということです。
さらに、「朝日新聞の用語の手引」には
ひょうき
=表記〔書き表す〕
=標記〔表題〕標記の件につき
(出典元:「朝日新聞の用語の手引き」朝日新聞出版)
とあります。
このようにして見ると「標記」と「表題・標題」は、同じ意味で使われていることが分かります。
まとめ
- 「表題」と「標題」の意味は同じ。(どちらを使っても良いが、新聞などでは「表題」を使っている。)
- 「標記」と「表題・標題」は、同じ意味で使われている。
自分としては、「本のひょうだい」と書くときは「表題」を使い、「ひょうだいの件」と書くときは「標題」を使いたいと思っています。