「開く」「明く」「空く」の意味の違いと使い分け

文化庁が発行している「新訂公用文の書き表し方(資料集)」を見ていたら、第80回国語審議会総会(昭和47.6.28)の「当用漢字改定音訓表」審議の参考資料「『異字同訓』の漢字の用法(国語審議会漢字部会)」に、

あく・あける

明く・明ける―背の明いた服。夜が明ける。

空く・空ける―席が空く。空き箱。家を空ける。時間を空ける。

開け・開ける―幕が開く。開いた口がふさがらない。店を開ける。窓を開ける。

(出典元:「新訂公用文の書き表し方(資料集)」文化庁)

という記載を見付けました。

そこにあった「背の明いた服」という一文。

「背のあいた」は「背の開いた」ではなかったのか……? 

「明く・開く・空く」の意味

そこで、デジタル大辞泉(goo辞書)で「明く・開く・空く」を引いてみました。

「開く」とは

「開く」には、隔て・仕切り・覆いなどが、動かされて除かれる。閉じていたものがひらく」という意味があり、「窓が開く」「鍵が開かない」などと使います。

また、「営業が始まる。営業が行われる」という意味で、「店は何時まで開いていますか」、「開票がはじまる」という意味で、「票が開く」と使います。

「明く」とは

明く」には、「衣服の襟などが、ひらかれている」という意味があり、「この服は襟ぐりが明きすぎている」と使います。

また、「閉じていた目や口がひらいた状態になる」という意味で「小犬の目が明く」、「物忌みや契約などの、一定の期間が終わる」という意味で「喪が明く」「年季が明く」と使います。

「空く」とは

「空く」には、「今までそこを占めていたもの、ふさいでいたものが、除かれたり、なくなったりする」という意味があり、

「穴ができる」という意味で「胃壁に穴が空く」

「そこにいた者やあった物がなくなり、からになる」という意味で「空いている部屋はありますか」「席が空く」

「空間・空白・余地ができる。間隔が広がる」という意味で「行間が空いている」

「器の中のものが全部使われてからになる」という意味で「瓶が空く」「空いた銚子をかたづける」

「仕事が終わり、暇になってゆとりができる」という意味で「からだが空く」「手が空く」

「用が済んで、当面使わなくなる」という意味で「空いたら貸してください」

「欠員になる」という意味で「課長のポストが空く」

と使います。

補説

「小犬の目が明く」は「小犬の目が開く」とも書きます。

「空く」は「明く」とも書きます。   

 

(以上出典元:「デジタル大辞泉」goo辞書)

「背中の明いた服」と「背中の開いた服」

この解説から、「背中のあいた服」は「背中の明いた服」、「小犬の目があく」は「小犬の目が明く」と書くことが分かります。

ただ、毎日新聞用語集を見ると、「背のあいた服」を「開(ひらく)」の項目に「背の開いた服」と記載しています。

このことについて「当用漢字改定音訓表」の審議の参考資料「『異字同訓』の漢字の用法(国語審議会漢字部会)」に、

明く・明ける―背の明いた服。夜が明ける。

という記載があるのは、冒頭で述べた通りです。

「毎日ことば」によると、グーグルで検索すると「背中の開いた服」が17万2000件ヒットで、「背中の明いた服」が8件ヒットとありますから、筆者が「背の明いた服」という一文に疑問符を付けたのは自分でも無理のないことだと思います。

このように世間一般に「明いた」と「開いた」が混在するのは当然のことです。

講談社「日本語大辞典」で「明く」と「開く」を引くと、

あ・く【明く】

閉じていたものが開く。「戸が明く」

開いて見えるようになる。「目が明く」

③かたがつく。「埒がない」

あ・く【開く】

①仕切り・おおいなどが除かれる。閉まっていたものがひらく。ひらく。「幕が開く」

②へだたりができる。「一位と二位との差が開く」

(出典元:「日本語大辞典」講談社)

とあります。

「明く」の意味「閉じていたものが開く」と「開く」の意味「閉まっていたものがひらく」は同じことなのです。

また、「明く」の意味「開いて見えるようになる」は「背中の明いた服」の根拠とも言えます。

「毎日新聞用語集」「朝日新聞の用語の手引き」には、「明」「明く・明ける」の意味の一つに「中身が分かるようになる」があります。

「背中が明く」とは、「開いて見えるようになる」「中身が分かるようになる」。

つまり「背中という中身が見えて分かる」ということなのではないでしょうか?

「小犬の目が明く」は「小犬の目が開く」

[補説]の「『小犬の目が明く』は『小犬の目が開く』とも書きます」についても、「毎日新聞用語集」「朝日新聞の用語の手引き」の記述がポイントになります。

「明く・明ける」は「明るくなる、中身が分かるようになる、片が付く」という意味で、「目が明く」は「目が見えるようになる」こと。

それに対して、「開く、開ける」は「ひらく」という意味で、「目を開く」は「目をひらく」こと。

つまり、「小犬の目が明く」は「小犬の目が見えるようになった」ということで、「小犬の目が開く」は「小犬の目がひらいた」ということになります。

結論としては、「小犬の目が明く」は「小犬の目が開く」とも書くことができるけれども、意味には違いが出て来るということです。

まとめ

  • 「背中の明いた服」の「明いた」は「中身が見えている」という意味。
  • 「背中の開いた服」の「開いた」は「背中のひらいた」という意味。
  • 「小犬の目が明く」の「明く」は「目が見えるようになった」という意味。
  • 「小犬の目が開く」の「開く」は「目がひらいた」という意味。

※公用文の場合、「『異字同訓』の漢字の用法」にある用例「背の明いた服」を用いるのが無難かと思われます。

【参考資料】

デジタル大辞泉(goo辞書)毎日ことば、毎日新聞用語集(毎日新聞社)、朝日新聞の用語の手引き(朝日新聞出版)、日本語大辞典(講談社)

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