百年文庫19「里」小山清 藤原審爾 広津柳浪

「朴歯の下駄」小山清

「妻の形見だって。」「しずちゃんにあげるの。」といった何気ない言葉が終末への伏線となっていたことに気付きます。たった一つの言葉が小説の出来栄えを左右する。そんな緻密な作品なのです。

「罪な女」藤原審爾

小愛は、あけっぱなしで、深みがないふうに見えるので、遊ぶには面白いが深くはつきあえない妓だと、みんなから思われていました。そんな小愛がひとりの客に惚れてしまうのですが、実は彼女には殺人で刑務所に入っている亭主がいたのです。

作者はあらゆるジャンルの小説を手掛けた名人です。動物小説の代表作「熊鷹 青空の美しき狩人」ゆかりの地である隣町に文学碑があります。

「今戸心中」広津柳浪

1896年(明治29年)の作品。登場人物の描写が克明で、会話文による構成に臨場感があります。主人公の花魁は二十二三歳で稼ぎ盛り。男好きのする丸顔ですが剣があります。花魁には惚れた男がいましたが、男が故郷に帰ることになり最後の宴が催されます。一方に花魁に入れ込み通い詰める客がいました。彼は花魁から見向きもされないのです。二人の会いたいという気持ちがすれ違う何とも切ない物語です。

(019)里 (百年文庫)

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