百年文庫34「恋」伊藤左千夫 江見水蔭 吉川英治

「隣の嫁」伊藤左千夫

稲作の繁忙期に互いに力を貸し合い、風呂にも入らせてもらう間柄にある隣家の嫁「おとよ」と、いずれは他家へ婿養子になる二男「省作」の物語です。

正岡子規から影響を受けた写生文が農家の暮らしぶりを丹念に描く中、そこに芽生えた恋心を密やかに表出していきます。次第に高まっていく二人の心情を詳しくは述べず、結末を読むことで読者にそれを想像させる書き方がいいと思いました。

「炭焼きの煙」江見水蔭

炭を焼くことしか知らずに育った若者が山奥で一人暮らしていました。若者は朝起きると顔も洗わず着替えもせずに炭焼き小屋に向かう毎日を送っていました。

ある日のこと、花見に来た山主の娘が山を登れなくなって、若者が娘を負んぶして山を登ることになりました。若者は娘に触れたことで、それまで感じることのなかった切ない感情を抱きました。その結末は……?

誰もが持つ人間本来の感情がほとばしる物語です。

「春の雁」吉川英治

深川花柳界を舞台に繰り広げられる男女の物語です。男は長崎骨董を持って諸国を売り歩く商人。女は辰巳芸者。男は女の意気に惚れ何も言わず百五十両を渡しました。それは獄門が決まった大泥棒の情夫を助けるための金でした。女は男と長崎へ行くことを望み男はそれを承知しましたが、女には大切な忘れ物がありました。意気とか伊達とかの背後にある市井の暮らしが垣間見られる結末でした。

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