百年文庫38「日」尾崎一雄 高見順 ラム

「華燭の日」尾崎一雄

娘の結婚式を控えた父親の気持ちというものは、今も昔も変わりないのでしょう。溜まった涙が娘の頬を流れ落ちたときの父親。「何も云うことは無いのだ。いや、有ることはある」と、二つの言葉を挙げます。その心情が胸にしみてきました。

「痩せ雄雞」尾崎一雄

病気を抱えながら作家生活を送る緒方が、自分の姿を雄雞と重ね、その半生を語る物語です。「身構え慌てて気負い立つ雄雞の姿は滑稽だ。しかし遅疑逡巡するところがない」と、緒方は自分がやるべきことを考え続けるのでした。

「草のいのちを」高見順

「私」は戦争が終わって上海から帰った友人を訪ね、そこで友人の義妹や弟と会いました。義妹は女優を志望しています。弟は特攻隊の復員兵でした。

弟の乱れた枯草のような絶望。私は弟に「若草の萌え出る時まで、まあ待つんだな」と話します。そして次の詩を歌い出しました。

われは草なり 伸びんとす

伸びられるとき 伸びんとす

この詩は、「われは草なり」という題で、小学校5年の国語の教科書(平成元年~平成13年 光村図書)に載りました。

「年金生活者」ラム 山内義雄 訳

退職して年金生活者となった人の話です。「毎日が休日なのだから、休日は一日もないようなものである」「古いなじみの机、帽子をかけた釘も他人のものになっていた」は言い得て妙と言えます。終末の「私の仕事は完了した……」をどう捉えるか? 読者によって違ってくるかもしれません。

「古陶器」ラム 山内義雄 訳

古陶器に描かれた絵を鑑賞しながら、過ぎ去った若き日を思い出す年老いた男女。仮にもう一度あの時に戻れるとしたら……、と盛り上がりますが、最後に二人の目は古陶器に向けられます。昔をしみじみと懐かしむ物語です。

(038)日 (百年文庫)

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