百年文庫39「幻」川端康成 ヴァージニア・ウルフ 尾崎 翠
「白い満月」川端康成
使用人のお夏が癲癇と思われる発作を起こしたところで、前に一度読んでいることにやっと気が付きました。ネットで調べてみると、この作品はちくま文庫の「川端康成集」に収録されてあるとのことでした。
川端康成の文章はやはり美しい。この作品を読むとその美しさと隣り合わせた死や病を表現した文章にぶつかります。例えば、
「秋の虫ではこおろぎの声が一番美しいことが初めて分かったと思っている。」
と述べていながら、
「この大地は死骸にわいたうじ虫のようにこおろぎが蝕んでいるような気がしていらだたしい不安を感じる。」
と、人間の感情を絶妙に描いているのです。
「壁の染み」ヴァージニア・ウルフ 西崎 憲 訳
なにげなく顔をあげたところにあった壁の染みから、作者は想像豊かに思考を深めていきます。言葉による一般化。男性の視点による生活の統治。ホイッティカー年鑑を離れること。等々、思考が切れ間なく進んでいきますが、私にとってはかなり難解な一編でした。
「途上にて」尾崎 翠
読み取りが難しい作品で、何度か読み返してみました。
時間と空間が前後左右に織り込まれてあり、その糸を手繰るように読んでいく必要があります。また、人称の使い方が特徴的で、それも読み取りの手がかりになるのではないかと思います。
図書館からの帰り道、主人公(私)はかつて友達と二人でこの横町を歩いたことを思い出します。
そこで私は、その友達(あなた)に向けて手紙を書こうと思いたつのです。あなたの好きだったあのおかみさんのこと。図書館で読んだ何とか閑という人の著書のこと。そこで私は、「あなたの旧い発見を証明する年ごろ」「私たちにとって非常に美しい少年の足」と思い出を共有するのでした。
(私のペンはよほどしりごみしています)「今日のノオトはからっぽです」とあるので、私は物書きなのでしょう。
更に、私はこの横町で中世紀氏という医学生に再会します。中世紀氏は私と友達のことを「あなたがた」と言っています。かつて三人には交友がありましたが、彼は結婚相手のために二人に絶交状を出していたのでした。
友だちは田舎に帰り、私は屋根裏に引っ越しました。北海道のこおろぎの話、北海道に小包を送る話から、その友達は北海道に居るのではないかと思われます。
中世紀氏はピアノで賛美歌がひけるようになったら田舎の教会に行くと言っています。「こんどはあなたが思いがけなくそちらで中世紀氏に邂逅なさる番かもしれない……」と私が述べているので、中世紀氏の行先は北海道なのかもしれません。
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