百年文庫40「瞳」ラニアン チェーホフ モーパッサン

「ブロードウェイの天使」ラニアン 加島祥造 訳

ブロードウェイで場外馬券屋をやっているベソ公と呼ばれる男がいました。ある日、若い男が馬券の担保として小さな女の子をベソ公に預けましたが、その男は女の子を迎えに来ませんでした。

ベソ公はしかたなくその女の子を連れて歩きました。女の子はレストランの前で演奏する手回しオルガンに合わせてダンス踊りました。その愛らしさにベソ公を知る「みんな」はベソ公がこの子をどうすべきか議論しました。

ベソ公は女の子のために自動車を買い使用人を雇って彼女を育てました。すると、ベソ公の悲しげで意地悪で下品な顔つきが変わっていきました。

ところが、ある晩、女の子が肺炎になってしまいます。入院した女の子に「みんな」からお見舞いの品が届きました。しかし、女の子は肺炎の権威の博士にも診てもらった後に天に召されてしまうのでした。

そこへ女の子を預けた若い男が現れ、「自分の子供は母方のお爺さんのただ一人の相続人で、自分たちはもうじき金持ちになる」と告げました。

ベソ公の顔は女の子に会う前の泣きべそめいた意地悪で卑しい顔つきに変わりました。

この作品は1932年に発表され、1934年に「リトル・ミス・マーカー」というタイトルで映画化されヒットしたそうです。

「子供たち」チェーホフ 池田健太郎 訳

父母と叔母が将校の家の洗礼式に出掛けました。本当は寝る時間なのですが、子供たちは大人たちから洗礼式の話を聞くまでは寝る訳にはいかず、ロトーあそびに興じていました。グリーシャ、アーニャ、アリョーシャ、ソーニャ、アンドレイ、そしてワーシャ。年齢や性格の違いによって彼らのゲームへの関わり方が違います。

いつの間にか6歳のソーニャが眠ってしまいました。8歳のアーニャがソーニャをベットへ連れて行きます。そしてその5分後には、そのベットにアリョーシャ、グリーシャ、アーニャ、アンドレイが一緒に寝ていました。そうした光景の描写が何とも微笑ましかったです。

「悲恋」モーパッサン 青柳瑞穂 訳

ノルマンディを旅する若い画家が、農家の宿屋で年増のイギリス人女性と出会いました。無愛想な彼女を宿の人たちは「デモニアク(悪魔につかれた女)」と呼んでいましたが、彼女は画家が描く絵を介して少しずつ心を開いていきました。

やがて画家は彼女が自分に好意をもっていることに気付きます。しかし、画家が宿を出て行くことを決めたその夜、彼女は画家と若い娘との行為を目撃し、井戸に身を投げてしまうのでした。

画家は彼女の死後、彼女が神を信じ、人間以外のあらゆる生物や事物を愛していたことを知ります。一人で彼女の通夜をする画家の、

「いまや、彼女は解体して、今度は植物になろうとしています。彼女は、日光をあびて、花をひらくことでしょう。牝牛に食べられ、種子となり、鳥に運ばれることでしょう。そして、今度は動物の肉となり、ふたたび人間にもどることでしょう。」

という言葉が印象に残りました。

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