百年文庫43「家」フィリップ 坪田譲治 シュティフター

「帰宅」フィリップ 山田 稔 訳

仕事を探しに行くと言って出て行った酒飲みの男が4年ぶりに家に帰ってきました。妻は俯いて前掛けで顔を覆いました。三人の子供のうち下の二人は父親のことを覚えていませんが、13歳になる娘は彼を覚えています。そこへ、互いによく知るもう一人の男が入ってきました。彼はこの家の家族となって暮らしていたのでした。

「小さな弟」フィリップ 山田 稔 訳

お母さんとお父さんが旅行に出かけるので、4人の子供が小父さんの家に泊まりに行くことになりました。小父さんの家には子供が3人いて、子供たちは3台のベッドに一緒に寝て一夜を過ごしました。

翌朝、家に帰ると母の枕元にカーテンの引かれた小さな揺かごが置いてありました。

4人の子供たちがそろって赤ちゃんと対面する場面が何とも微笑ましい物語でした。

「いちばん罪深い者」フィリップ 山田 稔 訳

木靴職人のペティパトンが鍛冶屋のボルドーと錠前屋のロメに誘われて昼間から白葡萄酒を飲んでいました。

その日、神父のお説教がありました。教会へ向かう人たちを見て、酔っぱらった彼ら三人も教会へ行くことにしました。

ペティパトンは神父の

「兄弟たちよ、わたしたちのうちでいちばん罪深い者は誰だ、などと言えるものが、一体いるでしょうか」

という問いに対して、

「いちばん罪深い者、そりゃあ、わたしですよ!」

と答えました。

次の日、ペティパトンの家に司祭と神父が訪ねてきた。ペティパトンは白葡萄酒をご馳走し、商売の話をすると司祭はペティパトンに木靴を一足注文しました。

「酔っぱらいにも神様はいる」

人をおおらかな気持ちにさせてくれる短篇でした。

「ふたりの乞食」フィリップ 山田 稔 訳

年をとった夫婦の乞食がいました。町の人たちが二人に施しをするのは、爺さんの目が不自由だったこともありますが、二人がいつも身ぎれいにしていたからです。しかし、その爺さんが行き倒れになって亡くなってしまいます。婆さんは町の人たちに爺さんが亡くなったことを知らせ、もう物乞いはしないと告げます。町の人たちは二人を助けてやれるのがうれしかったので、淋しがりました。

人と人との温もりを感じさせられる短篇でした。

「強情な娘」フィリップ 山田 稔 訳

動詞の命令形の活用が言えなかったジュリーが先生から罰を受けました。その次の日、ジュリーは先生に賞状授与式でピアノ伴奏をするように言われましたが、「いやです」と断りました。先生が三度繰り返して頼んでもジュリーは三度とも「いやです」と答えました。

母親も彼女を説得しましたが、かたくなな気持ちを変えることができません。

この時期の生徒にありがちな心情を切り取った作品です。

「老人の死」フィリップ 山田 稔 訳

長年連れ添った妻を亡くした老人の話です。

妻がベッドに寝ているうちはまだよかったのです。棺に入れられ蓋が締められると妻の顔が見られなくなります。老人は墓穴に下ろされ棺から遠ざかり家へ向かう自分が薄情に思えました。そして翌朝、自分が独りぼっちだと気付いた時、妻は死んだのだとつくづく思いました。

「ひょっとして、誰かと永年一緒に暮らしていると、体の中に何か生えてくるのだろうか。そしてその相手がこの世からいなくなると、その何かも消えてなくなる。今朝何も食べられなかったのは、たぶんそのせいだ」

そして三日目に彼は死にました。

長年一緒に暮らしていた人の死とはどういうものなのか教えてくれる作品でした。

「甚七南画風景」坪田譲治

甚七老人は、墓地からの景色を眺めに孫を連れて馬で出掛けました。途中川で鯰釣をしてみたり、70年前に父親が亡くなった時に放鳥を行ったことを思い出し、使用人に小鳥を買いに行かせようとしたり、思い立ったことをやっていました。

翌日は、幼い時にのぞいた小鳥の巣が見たくて柿の木に梯子を掛けようとしたり、五月を待てずに鯉幟を立てたり武者人形を飾ったり、見たいものが次々に頭に浮かんできます。

自分の死について考える老人を、達観した明るさで描いています。

「みかげ石」シュティフター 藤村 宏 訳

物語は、主人公が子供の頃、車の差油を売り歩く風変わりな男から足に油を塗られたところから始まります。彼のおじいさんは、油で衣服や床を汚し母親に叱られた主人公を慰めるために外へ連れ出しました。美しい景色の中を歩きながらおじいさんが教えてくれたのは、昔この村に流行したペストの話でした。村人たちが次々と亡くなっていく中、森の中で生き抜いた少年と少女がいました。その後少年は叔父さんのところで油をつくる仕事をしていましたが、何年もたってから少女と結婚し叔父さんのもとを離れました。その叔父さんの血を引いたのが差油売りの男だったのです。

子供の頃に聞いたおじいさんの話。主人公は、床についた油の跡がどうなったのか母親に聞いてみたいと思っています。

確かめてみたい子供の頃の出来事、自分にもあったように思います。

(043)家 (百年文庫)

中古価格
¥2,062から
(2025/2/6 10:57時点)

 

(Visited 8 times, 1 visits today)

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です