百年文庫53「街」谷 譲次 子母澤 寛 富士 正晴

「感傷の靴」谷 譲次

アメリカで暮らすジョウジ・タニイは成金が集まる倶楽部で給仕人として働いていましたが、一歩倶楽部から出ると自尊心のために大金持ちのように振る舞っていました。

ある日ジョウジは倶楽部によく来るスミスという親爺の店で高価な靴を買いました。それは、スミスから意地悪くフランクと呼ばれることへの返報でした。そしてその靴を従軍が決まったヘンリイ・河田が借りていった、という物語の展開です。

その後、戦勝記念日の進軍の中で馬に乗って手を振るヘンリイの姿がありました。ジョウジは故国を遠く離れたところで活躍する日本人ヘンリイを見て嬉し涙を流すのでした。

(大正時代に異国にいた人の日本人であることへの感傷を書いたものでしょうが、現在兵士としてウクライナの戦場で戦う日本人がいるという報道をみると、感傷どころではなくなります。)

 

「チコの話」子母澤 寛

夫に早く先立たれ一人息子を戦争で亡くしたおときさんに身寄りはなく、「私」の家のお手伝いをしていました。そのおときさんが雨に濡れ死にかかったような子犬を拾ってきました。おときさんの懸命な介抱によって子犬は助かり「チコ」と呼ばれて育ちました。

2年後、おときさんが肺炎らしい徴候を見せて入院すると、チコはご飯を食べなくなりました。

おときさんが「チコを頼みます」と何度も言うので、「私」はチコを病院へ連れて行きました。

チコはおときさんが亡くなってから家を飛び出して何度も病院へ行きました。チコはご飯を食べず、雪の朝、おときさんが亡くなった病室のすぐ下で眠ったように死んでいました。

(12章から成る短い文章の連なりが読みやすく、淡々とした書きぶりから、犬と飼い主の真実の関係が伝わってきます。)

「一夜の宿・恋の傍杖」富士 正晴

「傍杖(そばづえ)」を辞書で引くと、「自分とは関係ないことに巻き込まれて災難を受けること」とあります。その災難を受けるのが木の花という男性編集者で、災難の元になるのがハアちゃんという女性作家です。シュミーズ姿のハアちゃんと薄汚れたワイシャツのミイちゃんという男性との修羅場は、薄暗い白黒映画を見ているようでした。

1955年の作品。一つ一つの風物が戦後間もない時代を物語っています。

(053)街 (百年文庫)

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