百年文庫54「巡」ノヴァーリス ベッケル ゴーチェ

「アトランティス物語」ノヴァーリス 高橋英夫 訳

国王に寵愛されている王女がある日急に失踪しました。王女は遊園に接した翁の家屋敷で出会った若者と恋に落ちてしまったのです。王女は一目にふれない地下室を住みかとしていました。王女は父王を思い独り泣いていましたが、若者の前ではその悲しみを隠していました。

国王は深い悲しみの中にいました。

一年が過ぎ、昔の饗宴が再開されました。詩人が歌い終わった静寂の中に若者の美しい歌が聞こえてきました。その後、幼子を抱きヴェールをかぶった王女を伴って翁が現れ、王女は涙とともに王の足もとにくずれ幼子をさしだしました。国王はきびしい様子をしていましたが、やがて王女を抱きしめ大声で泣きました。

詩人たちは高らかに歌声をあげ、その夜は国全体の聖なる前夜祭となりました。

この物語の最後が、何とも読者の想像を駆り立ててなりません。

「その後、この国がどうなったのか、これはだれも知っている者はいない。アトランティスははげしい洪水によって姿を消してしまった、と言われている。」

この伝説の地が実在し、そこに人々が暮らし、いくつもの物語が生まれたのだとしたら……、その物語が今も海底に沈んであるのだとしたら……、と思いを巡らすばかりでした。

「枯葉」ベッケル 高橋正武 訳

二ひらの枯葉たちの会話です。

一ひらは野面を吹かれて、もう一ひらは水の流れの途中で風に吹き上げられ、枯葉たちは出会いました。

枯葉たちは思い出します。芽を出した日のこと。高い梢にいたこと。虫たちが飛び回っていたこと。小鳥が巣をつくったこと。少女が泣いていたこと。

やがて虫たちがいなくなり、小鳥たちもいってしまい、自分たちも枯葉となって吹きもぎ取られました。吹き飛ばされて少女の眠っている墓の上で休んだこともありました。

そして、枯葉たちはまた風に吹き飛ばされて別れ別れになります。

 落葉舞う季節に呼応するように哀愁を誘われる作品でした。

「ポンペイ夜話」ゴーチェ 田辺貞之助 訳

オクタヴィヤンという青年が友人と三人でポンペイの遺跡を訪ねたときの話です。

オクタヴィヤンは、ナポリのストゥーディ博物館で、溶岩が女性の身体をつつんで冷却し、その輪郭を保存したといわれる塊に出会い一人魅了されます。それはアッリウス・ディオメデスの別荘の地下室から発掘された押型でした。

その後彼らはポンペイを訪れ遺跡を見学しましたが、オクタヴィヤンはその夜一人で遺跡を訪ね、そこでアッリウス・ディオメデスの姫アッリウス・マルチェッラと出会います。彼女こそ溶岩に美しい痕跡を残した女性だったのです。
あれは夢だったのか、それとも現実だったのか? 二千年の時をこえ、ロマンティシズムの世界へ誘う物語でした。

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