百年文庫60「肌」丹羽文雄 船橋聖一 古山高麗雄

「交叉点」丹羽文雄

30歳をすぎた男が小さな酒場のマダムと関西に逃避しました。それから6年後、二人は一軒の酒場を開きますが、まもなく妻が交通事故死してしまいます。失意の男はセールスマンになりましたが、集金を使い込んでしまい結局東京に逃げ戻ってきました。男は場末のアパートの部屋を借り学生時代の友人の料亭に勤めることになりました。アパートの隣室には酒場で体を売る23歳の女が住んでいました。男は憐みをもって接していましたが、それが次第に男女の関係になっていきます。そのような中、男に料亭で働く女中との再婚話が持ち上がります。

寸分の狂いもない構成が読者を唸らせます。また、登場人物の役割が明確で、読後その一人一人の実像が浮かび上がってきます。題名「交叉点」の意味が分かり、なるほどと頷きました。

「ツンバ売りのお鈴」船橋聖一

文筆家の私が執筆のため都内の旅館にカンヅメになりました。そこで私の世話をしてくれたのが部屋女中のお鈴でした。

旅館を出たその日、私は財布がなくなっていることに気付きます。その後、お鈴は突然旅館の主人から暇を出されました。

私は取材先のストリップ劇場でお鈴と再会しました。彼女は踊り子たちにパンツを売る仕事をしていました。私はそこで初めてお鈴の素性を知ります。彼女には年の離れた中気の夫がいて、その母親からスリの手ほどきを受けていたのでした。

私がお鈴に対する気持ちを語ることはありません。しかし、お鈴とのやり取りが淡々と綴られていく中、その行間にその心情を読み取ることができるのです。

「金色の鼻」古山高麗雄

二十年間暮らしてきた夫婦が区役所に離婚届を出しました。夫は別れた後の妻の生活を心配していますが、妻はそれほどでもありません。やがて夫は二十年前の妻との出会を回想し始めます。

題名「金色の鼻」とは「幸福を招く猪」として有名なフィレンツェの猪像の鼻のことです。男と女の関係を猪の鼻とそれを撫でる手に例えています。そして、その猪が金色夜叉のお宮の格好をしていることに着目して物語を結んでいるのです。

きれいさっぱり別れようとしている妻と未練たっぷりの夫。可笑しみと悲しみが入り混じったような別れ話でした。

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