百年文庫63「巴」ゾラ 深尾須磨子 ミュッセ

「引き立て役」ゾラ 宮下志朗 訳

独創的な事業家デュランドーが、きれいな女性を引き立てるみにくい女性を貸し出すという商売を始めました。(文中ではみにくい女性のことを「ブス」と称していますが、昨今の情勢からしてこの言葉は使いにくいです)。この話を面白くしているのは、みにくい女性を探し出すのに殊の外苦労しているところにあります。自分がみにくいと名乗り出てくるような女性はたいてい美しいのだそうです。

面白可笑しく書いているように見えますが、引き立て役の存在価値やその悲しみに寄り添っているようにも読めてきます。これまでの百年文庫にないジャンルではないかと思います。

「さぼてんの花」深尾須磨子

パリに暮らす「わたし」が公という人物に宛てた手紙風の作品です。

わたしは週に一度オオボエのレッスンに通っていたのですが、ある日、先生のアパートの入り口で一人の若者と出会います。若者は22歳で、同じ先生に師事しているオオボエ奏者でした。わたしは40歳ほど。二人は間もなく恋に陥りました。

これまで咲かずじまいだったわたしが急に花になりかけています。ここで冒頭にコレットの「さぼてんの花」を引用した意図が分ってきます。

時代遅れな骨董のパリに咲いたさぼてんの花。情景が見えてくるようです。

「ミミ・パンソン」ミュッセ 佐藤実枝 訳

表題の「ミミ・パンソン」とはパリのお針娘の名です。もう一人のお針娘はゼリア嬢。この二人と大宴会をしようと計画したのが医学生のマルセルで、彼は同じく医学生のウジェーヌを誘いますが、こちらはあまり積極的ではありません。

朝方宴会が終わり家に帰る途中、ウジェーヌは路地で死にかかった女性に出会います。彼女はパンソン嬢の話に出てきた一夜の遊びのためにお金を浪費した娘ルージェットでした。パンソン嬢はルージェットのために一着しかない着物を質屋に入れお金に換えていました。

作中、パンソン嬢が歌を歌う場面があります。

ミミ・パンソンは金髪娘

誰もが知ってる金髪娘

着物は一枚、着たきり雀

…… ……

と続きますが、この歌詞にミミ・パンソンの実像が表れています。

生真面目で世間知らずなウジェーヌは、貧しくとも懸命に生きている彼女らに心を動かされていくのでした。

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