百年文庫65「宿」尾崎士郎 長田幹彦 近松秋江
「鳴沢先生」尾崎士郎
ナルザワ先生は帝大出で旧制中学の英語教師でした。その先生が今は簡易宿泊所の常連で無銭飲食の常習者となっています。警視総監が無二の親友という先生が、教え子にその日の宿を乞い、不忍の池の屑屋に「おれを何とか処分してくれないか」と乞う。その括淡たる生き方が描かれています。
「零落」長田幹彦
「零落」とは「おちぶれること」。
主人公は、東京から北上し北海道へ渡る度の末に野寄の町に入りました。
野寄座という芝居小屋には中村一座という芝居がかかっていました。主人公はそこで一座の人々と知り合い、様々な境遇の中で生きる姿に興味と憧れを持ち、一座から離れ去ることができなくなります。
物語の終末は、一座が次の興行地に向かう場面です。そこには旅役者の群に交じって歩く主人公の姿がありました。
自らの放浪体験を題材にした長田幹彦の出世作とのことです。
「惜春の賦」近松秋江
春の情景が美しく描かれている作品です。
主人公は、友人と共に松本、名古屋を経由して京阪へ向かう旅をしていました。途中友人と別れて郷里に家に寄ると、年老いた母が病に倒れていました。主人公は母を心配しつつ懐かしい郷里の光景に身を置いた後に友人が待つ京都で遊興します。
秋江は私小説の形を完成させた作家といわれています。
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