百年文庫70「野」ツルゲーネフ ドーデ― シラー
「ベージンの野」ツルゲーネフ 佐々木 彰 訳
エゾヤマドリを撃ちに行った帰り道、主人公の「私」はベージンの野と呼ばれる所に迷い込み、馬番の少年たちと一晩を過ごさせてもらうことになりました。少年たちは焚火を囲んでそれぞれが知っている奇怪な話を教え合います。家魔の話、水の精の話、日食の話等々。それらの話の中に幼くして事故で亡くなった子供の話が出てきます。迷信を信じ教訓とし神を敬う少年たちの姿がありありと描かれ、自然描写も丹念で輝いていて美しい物語となっています。
「星」ドーデー 桜田 佐 訳
山の上に独り暮らす羊飼いは、二週間に一度食糧を持ってくる農場の小僧やおばさんに会えるのを楽しみにしていました。彼らから聞く村の出来事の中で、一番聞きたいのが主家の美しいお嬢さんのことでした。ある日、小僧は病気、おばさんは休暇で、その代わりにお嬢さんがやって来ました。お嬢さんは独りで暮らす彼のことをいろいろ訊いて村へ帰っていきましたが、夕立で途中の川が増水し引き返してきました。彼はお嬢さんのために火を起こし、夜も彼女を護りました。お嬢さんの質問に星座を見上げて一つ一つ答えていく羊飼い。「二人を巡って星は羊の群れのようにおとなしく静かな歩みを続けた」。美しい表現にあふれた珠玉の物語でした。
※ドーデー作「最後の授業」は1985年(昭和60年)まで国語の教科書に掲載されていた(光村図書6年下、神宮輝夫 訳)。
「誇りを汚された犯罪者」シラー 浜田正秀 訳
主人公クリスティアン・ヴォルフは少女ヨハンネに貢ぐために盗みを重ね監獄に入り、ついには殺人を犯し最後に盗賊団の首領となりました。しかし、彼はその忌まわしい仕事に耐えられなくなり領主に請願書を出しました。というた展開です。物語に導く哲学的な文章にやや閉口しましたが、そこを乗り越えた先にヴォルフの壮絶な転落の物語が待っているのでした。そして、彼自身による告白に引き付けられて一気に読み進みました。「本来の自分に戻りたい」という彼の願いが切なく胸に響きました。
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