百年文庫83「村」黒島伝治 葛西善蔵 杉浦明平
目次
「電報」黒島伝治
自作農の源作は、息子に貧しい暮らしをさせたくない、と市の中学校を受験させました。自分より出来が悪かった者が上の学校に行き、今は村で威張っている。息子をそんな不利な立場に置きたくはなかったのです。しかし、その噂が村中にひろがり彼ら家族は苦しみます。村会議員からは「労働者が息子を中学へやるのはよくない」と言われました。源作は悩んだ末に「チチビョウキスグカエレ」と電報を打ちました。
「豚群」黒島伝治
百姓たちは稲作をあきらめ、相場の高い豚飼いで生活を支えるようになっていました。地主は小作料の代わりにその豚を差し押さえようとしました。それに対して百姓たちは話し合い、豚を野に放し持ち主が分からなくしよう、と決めました。しかし、自分の土地を持っている者は賛同しませんでした。執達吏が豚小屋を封印し百姓が勝手に豚を売買できないようにしようとしましたが、百姓たちはその前に豚を野に放しました。その結果、差し押さえられたのは、賛同しなかった者たちだけ。百姓たちは「やり得だった」という話です。
「馬糞石」葛西善蔵
病気で死んだ馬を解剖したところ、裂けた直腸から直径二寸五分(約7.575cm)ほどの丸い石が出てきました。獣医は許可を得てそれを参考品として学校へ贈りました。ところが石の噂が村中に広がり、ゴホンケ(駄法螺吹きの意)からそれは値のつけようのない宝物だと聞かされます。噂に翻弄されて馬糞石を取り戻そうとする一家の騒動。今風に言えばデマに踊らされているということでしょうか……。
「泥芝居」杉浦明平
ずんぐりの凸凹頭で、からかうと頭突きで何度も突進してきた次郎さが大人になりました。汚い身なりで貧乏百姓のおやじにしか見えませんが、やることは凄い。町会議員選挙の票集め、裁判で陥れる汚い手法、土地ころがしの金儲け。退廃した村で巧妙にしたたかに生きる次郎さの姿が赤裸々に描かれています。戦後社会を生きてきた一人の人物としての存在を感じました。
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