百年文庫85「紅」若杉鳥子 素木しづ 大田洋子
「帰郷」若杉鳥子
小巻は11歳のとき30円で年期にやられ、後、芸妓になってあちこちを転々とし19歳のときに「やなぎや」に入りました。以来老夫婦がなくなってからも小巻が商売をついでやってきました。経子もそこにもらわれてきた女の一人でしたが、20年前に出奔した身の上です。経子は小巻の葬式に参列するために帰郷しました。「貧しい、親きょうだいのために働き通した一生がここに眠っている」。火葬場で経子は「私はここでは焼かれたくない」と思いました。故郷を離れ必死に生きてきた女性の複雑な心情が描かれています。
「三十三の死」素木しづ
お葉は18歳のときに片足を失くし、そのときから自分の行く末を考えるようになりました。そして三十三の年に死のうと決めました。「自分の生命は自分のものである。出来るだけ幸福に美しくあらせたい」と思ったのです。人目を避けて早朝に母と二人近所の浴場に入る場面に臨場感がありお葉の心情が生々しく伝わってきます。その鋭敏な感性と繊細な書きぶりが注目されていましたが、作者は22歳の若さで他界しています。
「残醜点々」大田洋子
原爆投下から7年経った広島が舞台の物語。主人公の「私」は原爆が落ちたときにこの街にいました。私は20歳のときに妻子ある男性と結婚し子供を産みましたが、後に夫と別れ子供とも離れ離れになっています。戦後東京に帰って小説家となり、3年ぶりに帰省し親族たちと会いました。親族たちは皆戦争と原爆の被害を受けています。満州からの引揚者であること。戦病死者の家族であること。そして被爆者であること。まさにその残醜から戦争の惨状が伝わってくるのです。
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