百年文庫86「灼」ヴィーヒェルト キプリング 原 民喜
「母」ヴィーヒェルト 鈴木仁子 訳
ナチスの収容所に囚われていたと見られる母親が帰って来ました。家には息子を連行しにきたアメリカ兵たちが二人の娘を傍らに置いて酒を飲んでいました。息子は母親を告発したという嫌疑を掛けられているようです。母親は頭を短く刈られています。処刑の斧が入りやすくするためです。次の朝に行くことになっていたが母親はアメリカ兵が来たことによって刑を免れたのです。「神様はご覧になっている。おまえたちみんなを。勝ったものも負けた者も。いまもご覧になっているよ、お若いの」という母親の声に今もなお続く戦争の惨状を思いました。
「メアリ・ポストゲイト」キプリング 橋本槇矩 訳
付添婦メアリ・ポストゲイトは、ミス・ファウラーの代理人としての役割を果たしていて、甥ウィンダム・ファウラーの養育も引き受けていました。ウィンダムは何かと彼女を手こずらせていましたが、彼女こそが彼のよき理解者で最良の味方だったのです。そんなウィンダムが大人になり弁護士になったとき戦争が始まりました。彼は空軍に入隊しましたが、試験飛行の間に事故で死んでしまいます。メアリがウィンダムの遺品を焼却しているとき飛行機から爆弾が落ち子供が犠牲となりました。メアリは、樫の木の下にうずくまっているドイツ語の飛行士に敵愾心をむき出しにするのでした。メアリの悲しみと怒りが焼却炉に燃え残っているかのように感じました。
「夏の花」原 民喜
「私」は久しぶりに寝間着に着替えて眠りました。そして、朝、厠にいるときに被災したため一命を拾いました。何が起こったのかも分からず、家の崩壊も自分の家だけだろうと思っていましたが、その惨状は全てで起こっており、やがて火災が発生します。避難の途中に出会った火傷した人や亡くなった人の数え切れぬ姿。焼け跡に見た白骨化した死体。原爆投下後すぐに白骨化するとはどういうことなのか、知り得ぬ惨状があることを認識したところです。
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