百年文庫89「昏」北條 誠 久保田万太郎 佐多稲子
「舞扇」北條 誠
「森伝」は粋筋の間に名の通る海苔屋でしたが、時代の変化に取り残され商売は先細りとなりました。二代目主人の伝兵衛は、先代から預かる嘉吉じいさんに帳場を任せ野放図な暮らしをしていましたが、森伝の品質だけは頑固に守っていました。伝兵衛には正妻との娘京子と妾の子達吉がおり、京子には縁談が決まり達吉を三代目にと考えている矢先伝兵衛は急死しました。没落の中、遊び続ける伝兵衛の悲哀が浮かび上がってきます。
「きのうの今日」久保田万太郎
馴染みのクラブの老給仕人が停年で退職することになりました。35年勤めたそうです。もう一人の庶務主任は停年までもう3.4年あります。事務局長に老給仕人の停年を引き留められないかと聞くと、本人に未練はないと言っているのだそうです。そして局長も間もなく停年とのこと。
後日、久しぶりにクラブに行くと、庶務主任はいませんでした。前回訪れたとき、その30分とたたないうちに交通事故で亡くなったのだそうです。37年間コツコツと自分の道を歩み続けた人でした。
「今日は……きのうの今日は……」 人の感情がにじみ出て来るような作品でした。作者が書いた最後の小説だそうです。
「レストラン洛陽」佐多稲子
レストラン洛陽は関東大震災後、浅草にできた大きな建物でした。その二階に女部屋があり、そこで多くの女給たちが客の来るのを待っていました。お客を巡っての対立、情事、心中事件等々の中、哀しみを抱え懸命に生きている姿が見え隠れしてきます。登場人物が入れ替わり立ち替わり出てきて、レストラン洛陽の入り乱れた人間関係を演出しているように感じました。
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