百年文庫93「転」コリンズ アラルコン リール

「黒い小屋」コリンズ 中島賢二 訳

「私」はイングランド西部の荒れ地のまっただ中の黒い小屋に石工の父と二人で暮らしていました。ある夜、父が仕事で留守にしていたところに二人組の男が戸口を壊して強盗に入ろうとしてきました。彼らの狙いは私が地主のニフトンさんから預かった財布と母親が遺した4本の銀のスプーンでした。私が必死に抵抗すると彼らは萱葺の屋根を壊し執拗に中に入ろうとしたり煙突から石を投げ入れてきたりしました。それでも私が抵抗を続けられたのは、小屋が石造りでピッチとタールを塗った丈夫な造りだったからです。しかし彼らが石置き小屋にあった梁を使ってドアを打ち破り始めたとき、ついに私は危険を察して裏口から逃げ出したのでした。そして、助けを求めて逃げ込んだのが農園の本宅で、私はそこで失神してしまいました。その私を助けたのが農園の長男で、それが今の彼女の夫となったという話なのです。託された物を命がけで守り、信頼に応えようとした私の行動が幸福をもたらしたということです。

「割符帳」アラルコン 会田 由 訳

ロータに暮らすブスカベアタ爺さんは愛情を込めて育てた南瓜一つ一つに名前を付けていました。そして市場へ出荷しようと思っていた矢先、畑に行ってみると40個の南瓜がすっかり盗まれていました。しかし爺さんは冷静でした。彼は船でカディスの市場に向かい南瓜を売っている小売商人を見付けました。彼はお巡りさんにその南瓜は自分が育てたものだと訴えましたが、小売商人はそれを認めようとしません。食料審査官はそれが自分の南瓜であるという証拠が必要と言います。すると爺さんは包みの中からたくさんの南瓜の蔕を引っ張り出し、南瓜が盗まれたときに引きちぎられてできた穴にその蔕を合わせていきました。まさにそれは収税役人が持っている「割符帳」でした。南瓜の事をよく知っている爺さんの勝利という訳です。納得のストーリーでした。

「神様、お慈悲を!」リール 山崎恒裕 訳

腕が麻痺したふりをして乞食をしている若いファイトと脚の曲がった老いたハンスは、互いを親子であり友人のように信頼し合える仲でした。ファイトはハンスを師と仰ぎ教会わきに腰をおろし施しを受けました。ギルド社会において乞食の子は乞食として生きていくしかありませんでした。しかし、宗教改革によりルター派になると教会の前に座ることができなくなり、彼らは放浪の身となります。そして同じ頃、街にペストが流行し、病院に患者があふれると看護人が逃げ出し世話する人手が不足しました。疲れ果てたファイトは看護人になって感染して死のうと思いました。ところが、彼はそこで「与えることは受けることよりも尊い」ということを知り仕事に励み貯金まで出来る身分となり、ついには執事のポストまで獲得します。それから10年後、戦争によりカトリックとなった教会に放浪していたハンスが帰ってきましたが、彼はファイトと目を合わすこともなくやがて病気になってしまいます。ファイトはそんな彼を救おうと物乞いを始めます。しかし、お布施を持ってハンスの隠れ家を訪ねるとハンスは既に亡くなっていました。驚いたことにハンスはファイトのために裕福な市民の財産に勝るとも劣らないお金を残してくれていたのでした。他人のために乞食をするという境地にたどり着く意外な結末に何かを教えられた気持ちになりました。

(093)転 (百年文庫 93)

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