百年文庫95「架」火野葦平 ルゴーネス 吉村 昭

「伝説」火野葦平

失踪した河童の行方を追う名探偵。河童に想いを寄せる女の河童。河童は月の光がつくる光線を登ろうとしますが、途中で落ちて腰を打ち甲羅を割ってしまいます。仲間から嘲笑された後、彼は失踪したのでは? 心配した女の河童が彼の住居を訪ねましたが、そこで見たのは彼の透き通った姿でした。

作者のもとに河童の書いた小説が届きます。

「龍が年を経て位にのぼれば昇天するのだから、我々河童のもそうした機会がないはずはない、と河童たちは修行を経て昇天の術を習得する。しかし、昇天した者たちは次々と落下した。空の上はどこまで行っても空ばかりで何もなく、力尽きたのである。それ以来河童は愚の河童となった。」

という話でした。河童を題材といた作家の名前が出てきたりして面白かったです。

「火の雨」ルゴーネス

暑く、光に満ちた日、パチパチと火の粒が降ってきました。それは銅の粒でした。それが何故、どこから降ってくるのかも分からない中、主人公の「私」は悠然と食事をしています。しかし、いったん止んだ銅の雨が今度はより激しく街を焼き尽くす勢いで降ってきて、私の家は焼け落ちてしまいました。砂漠から狂乱状態に陥ったライオンの群れが街に押し寄せます。私は酒蔵にあった毒入りワインの瓶を携えていました。炎のゆらめきの中、彼は瓶を唇に運びました。火山の噴火なのでしょうか。何だかの災害に見舞われ終末を迎えようとしている人間の心の変化が描かれていました。

「少女架刑」吉村 昭

読み始めて間もなく、この物語の話者が死者本人であることが分かってきます。しかも、それが16歳の少女であるとは衝撃でした。この少女の遺体は大学病院の解剖教室と思われる機関に献体されました。その死体が標本にされていく過程が詳細に描かれています。作者はどのようにしてこの専門的な分野の取材を行ったのでしょうか。遺骨になってもなお死者は語り続けます。最後の最後まで死者本人を意識して読み進めなければならない作品でした。

架 (百年文庫 95)

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