百年文庫96「純」武者小路実篤 高村光太郎 宇野千代
「馬鹿一」武者小路実篤
「馬鹿一に逢っていれば、世間のことは忘れる。そして、こんな呑気な生活をしている人間もあるのだ。あくせくするのは馬鹿気ていると思うのだ。」
このように馬鹿一の所に人が集まること自体、彼らは馬鹿一を肯定していることになります。皆、あくせくしない生き方を望んでいるのですが、現実はそうはいきません。世間の評価を気にせずに、信念をもち自由に生きる馬鹿一への羨望がにじみ出ています。
「山の雪」高村光太郎
昔一度訪れたことがある「高村山荘」。筆者がここで何を見、何を聞き、何を感じて暮らしていたのか、その一部を垣間見た思いです。同じ雪国に住む者として、今は過酷と感じる雪も子供の頃は待ち遠しかったことを思い出します。同じように「わたしは雪が大好きである」という冒頭は、筆者の率直な気持ちがそのまま表れた言葉だと思います。雪の上にできる動物の足跡の違い、誰が歩いたのか分かる人間の足跡。まさにそのとおり、雪国で暮らした筆者ならではの作品だと思いました。
「八重山の雪」宇野千代
松江、関口屋の息子と足入れ婚した「はる子」が、英国海兵隊員「ジョージ」に見初められて一緒に岡山に逃げました。それを知った父親がはる子を探し当て実家へ連れ戻します。年が明け、はる子が父親と畑仕事をしているところにジョージが訪ねてきて、その後休日のたびにやって来るようになりました。やがて、はる子はジョージの子どもを身ごもり出産。ジョージは部隊から逃げ、八重山の叔父の家で身を隠して暮らし始めます。ジョージは、もんぺに袢纏姿、髪を黒く染め、炭焼きを手伝い竹籠編みを覚え、目立たぬように暮らしていましたが、最後に居場所が知れ渡ってしまうのでした。
悲しい結末が待っていることを匂わせながら、そこに向かって物語が進んでいきます。読者は結末を予期しながらも、そこに育まれる情愛や絆を確かめながら読むことになります。
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