百年文庫98「雲」トーマス・マン ローデンバック ヤコブセン

「幸福への意志」トーマス・マン 野田 倬 訳

パオロと「私」とは子供の頃からの気の合う友人でした。パオロは心臓が丈夫ではなく病の床に臥せることもありましたが、絵を描くことが得意で美術学校を出て画家として暮らしていました。その頃、パオロは男爵令嬢と恋をし、結婚を申し込みましたが、両親にきっぱりと断られてしまいます。パオロは連絡先も告げずに旅に出ました。五年後、私は旅先でパオロと偶然再会しますが、彼は心臓を病んだままでした。ある日、彼に男爵から結婚を許すという手紙が届き、彼は彼女のもとに向かいました。しかし……、という展開。作中の「ぼくは幸福になるだろうと思う」というパオロの言葉が胸に残りました。

「肖像の一生」ローデンバック 髙橋洋一 訳

この肖像はベギン会修道院の修道女、ドゥボネール夫人です。彼女は若くして未亡人となり、愛娘クリティと共に暮らしていました。ところが、クリティは16歳のとき反対を押し切りヴァン・ズィレン大尉と結婚しました。大尉の目当ては夫人の財産でした。大尉は持参金がなくなるとクリティを使って夫人からお金をせびり取ろうとし、それがうまくいかないとクリティを殴りました。やがてクリティは二人の幼い娘をのこして19歳で亡くなりました。ドゥボネール夫人は二人の孫娘を引き取り20歳になるまで育てました。途中ヴァン・ズィレンの謀略に震え上がることもありましたが、彼女は成人になるまで孫娘を守り通して天に召されました。作品を読み終わったとき、ドゥボネール夫人の肖像画を見ているような感覚を覚えました。

「フェーンス夫人」ヤコブセン 山室 静 訳

夫の死後、大半を二人の子供のために生きてきたフェーンス夫人は、三人で訪れたアヴィニョンで、娘だった頃に愛した男性と偶然再会します。やがて二人は結婚の約束をし、フェーンス夫人は子供たちに自分の決心を伝えました。しかし子供たちはそれを受け入れることが出来ませんでした。「今の自分があるのは母の愛があったから。父のことを知ったのも母の愛があったから。義理の父を受け入れることはできない。」それが子供たちの率直な気持ちでした。

二人は5年間をスペインで幸福に過ごしました。しかし、彼女は死を免れない病気になってしまいます。彼女は子供たちに手紙を書きました。「わたしはよく知っています。あなた方を大きな怒りに駆り立てたものは、あなた方の大きな愛であったことを。」愛ある故に受け入れることが出来ないことがある。でも、それは決して解消できないものではない。と信じたい。

(098)雲 (百年文庫 98)

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