百年文庫99「道」今 東光 北村透谷 田宮虎彦

「清貧の賦」今 東光

絵描きを目指している貞吉には許婚(いいなずけ)のような間柄のお綾がいたのですが、貞吉の家が没落したこともあり、お綾は他家へ嫁いでいってしまいました。母と二人暮らしの貞吉はひたすら書画篆刻の道を志しますが、作品は売れず貧しい暮らしが続いていました。そんな折、貞吉は書画篆刻を諦め家業に戻り酒の商いをすることになりました。貞吉が竹酔館売酒郎と号して酒を売るようになると、客が集まり彼の書画を求める者も出るようになりました。自分に正直にありのままに生きてきた貞吉にもたらされた幸せ、ほのかな温もりを感じることのできる作品です。

「星空」北村透谷

彼女を初めて見たときから思いが募っていき、彼女の父から将来の結婚を許されますが、それは彼女が学業を終えてからということになりました。「会わずにいると侘しく辛く、その一方で甘く美しい感情に打ちひしがれる」と、そんな思慕の情が古語で語られていきます。ところがある時、彼女の母親から断りの便りが届き彼女からの連絡がなくなります。「月は西へ西へと落ちゆきて慕いしものの影はなく茫々たる虚空に無数の星屑の炳々たるあるのみ」と主人公は星空を見上げているのです。人を恋するときの心情が如実に描かれています。

「霧の中」田宮虎彦

会津藩士の子、中山荘十郎は戊辰戦争のとき江戸旗本屋敷から会津若松へ逃れました。荘十郎6歳の時でした。肉親を失った荘十郎は会津降伏人として越後高田へ移された後、土井良作に連れられて北海道へ渡りました。土井は抜刀無形流の名手で、荘十郎はその後この剣を生活の糧として生きていきました。荘十郎の敵は西国の兵であり新政府だったはずでしが、年月を経るごとにその姿が見えなくなっていきます。荘十郎はそんな見えない敵に怒り苦しんで明治大正を過ごし昭和を迎え、敗戦後に生涯を閉じました。

(明治22年、荘十郎は新選組くずれの谷口東作と共に大阪へ出ています。ちょうどその年に生まれた私の祖母は幼い時に戊辰戦争の話を聞いたといいます。明治維新はそう遠くない出来事なのだと改めて思いました。)

(099)道 (百年文庫 99)

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