百年文庫12「釣」井伏鱒二、幸田露伴、上林 暁
「白毛」井伏鱒二
釣り好きの作者ならではの作品です。話は白毛の話から始まり、それが釣りの話に繋がっていきます。登場人物の手の中にある一本の白毛から端を発した話の展開がおもしろい。
「幻談」幸田露伴
小普請入り(非役となり)釣に明け暮れる暇な武士と釣船頭が体験した話。釣竿や釣糸、釣法についての記述が子細で、江戸期の釣の情景が浮かんできます。二人は暮方、水の中から出ては引っ込む細い棒のようなものを見つけます。それは……。
「二閑人交遊図」上林 暁
滝沢兵五氏はドイツ文学者、小早川保君は私小説家で、物語はこの二人の交流を描いたものです。二.二六事件、日華事変などが起こる世相の中で、生活に追われながらも交友を温めていく二人の姿が何とも味わい深い。「二閑人将棋を指すの図」「二閑人釣魚の図」「二閑人酒を酌むの図」「二閑人入浴の図」「二閑人遣繰りの図」。どれもおもしろかったですが、「酒を酌むの図」の言葉「考えたり、構えたりして、理性をはたらかせたり、事務的に飲んだりしては、酒はおいしくないですなア」には妙に同感するものがありました。
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