百年文庫68「白」梶井基次郎 中谷孝雄 北條民雄

「冬の蠅」梶井基次郎

作者は療養地で見た冬の蠅から小説を書こうとしています。その数行のプロローグに作者の息づかいを感じました。

緩慢で弱々しい冬の蠅たちと、主人公の不眠と憂鬱と倦怠。主人公は鬱屈した部屋から逃げ出し峠を越える乗り合い自動車に乗りました。そして途中の山中で車から降り歩き始めます。「歩け。歩け。歩き殺してしまえ」と自分に鞭打ちながら。

「冬の蠅」は1928年に発表され、作者は1932年に31歳で永眠しています。

「春の絵巻」中谷孝雄

京都の第三高等学校の学生と思われる若者が主人公です。若者は二人の級友と共に女性の三人グループと知り合います。丸山公園などの桜を背景に彼らの恋の物語が展開していきますが、その日、若者と一緒に花見に出かけていた級友が独り自殺しました。青春の光と影が交錯する中、若者の恋が進展していきます。

京都の美しい春を舞台に、若者たちの姿が生き生きと描かれている作品でした。

「いのちの初夜」北條民雄

これまでの百年文庫でこれほどの衝撃を受けた作品はなかったように思います。

題名を見たとき結婚初夜を連想したのですが、そのようなことはどこにも書かれていないし、初夜という言葉も出てきません。そして、物語の終末になって、この題名のもつ強く深い意味に気付かされたのです。ライ病(ハンセン病の古い言い方)の病院に入院することになった尾田はいつも死ぬことばかり考えていたましたが、同じ病気の佐柄木と出会い、その死生観にふれ、「やはり生きてみることだ」と思うようになるのでした。

作者は19歳でハンセン病を患い23歳の若さで他界しています。

(068)白 (百年文庫 68)

中古価格
¥890から
(2025/6/4 10:25時点)

(Visited 22 times, 1 visits today)

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です