百年文庫74「船」近藤啓太郎 徳田秋声 野上弥生子
「赤いパンツ」近藤啓太郎
南房州の漁村に、疎開してきた中学校の図画教師がいました。村では長く不漁が続いていましたが、その先生が気晴らしに船に乗ったところ、その船が大漁となりました。先生は赤いパンツを履いていました。それ以来先生が赤いパンツを履いて船に乗るとその船は大漁になるという噂が村中に広がりました。そうした中、雷どんの家でもずっと不漁が続いていて、そのことで兄弟喧嘩が絶えませんでした。そこで困った親方が先生に船に乗ってくれるよう頼みました。親方は縁起かつぎを嫌っていましたが……。うねる波に揺られながら漁に臨む漁師たちの姿がリアルに描かれていて読み応えがありました。映画化されているようです。
「夜航路」徳田秋声
大勢の客でごった返す汽船の中の出来事。「私」は座る場所を探す老婆とその娘たちに場所を開けてやりました。一夜を過ごす中、私は老婆とその娘たちの奇妙な言動を見ました。上の娘は癖の病気を持っているらしいが、「それが盗み癖なのか色情狂なのか。姉妹は父違いの子供なのかもしれない。東京に奉公に出して男に捨てられた娘を引き取ってきたところかもしれない。」と私は憶測します。狭苦しく蒸し暑い汽船に乗る人々の姿が印象に残りました。
「海神丸」野上弥生子
嵐に遭い漂流を続ける船長と3人の船員たちの物語。実在の海難事故に取材した作品です。
食料を巡って船長に反抗してきた一人の船員は食料が尽きると空腹のあまり人肉を欲するようになりました。そして仲間の船員を誘い船長の甥にあたる一番若い船員を狙い殺害してしまいます。空と海と太陽のみの世界を漂流する人間の極限の姿が如実に表現されています。貨物船に救助された喜びの裏にある過ちは決して消し去ることができません。残酷な物語でした。
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