百年文庫87「風」徳富蘆花 宮本常一 若山牧水
「漁師の娘」徳富蘆花
霞ヶ浦の浮島に住む老夫婦とその娘お光の物語。お光は拾い児でした。家の戸口まで霞ヶ浦は迫っていてその向こうに筑波連山が見えます。その眺望を見ながら歌うお光の歌は浮島の名物とまで言われました。お光は十四のとき叶わぬ恋をしました。老夫婦の愛では癒されないお光。そんなとき家が大雨で水没してしまい、病となった爺はうわ言で焼酎を欲しがりました。お光は一升徳利を持って霞ヶ浦に小舟を出しましたが、それっきり帰ってこず徳利だけが流れ着きました。
霞ヶ浦と筑波山の眺望に今にもお光の歌が聴こえてくるような物語でした。
「土佐源氏」宮本常一
戦前に高知県山中で採話した内容を発表した作品です。作者は民俗学者で「記憶の文化」を求めて全国を訪ね歩いたといいます。盲目の老人の住居は橋の下のいわゆる乞食小屋でした。この老人は元馬喰。父なし子の彼は村社会に入ることもできないまま育ち馬喰となりました。子供の頃の性的な遊びから始まり、多くの女性との遍歴を語り聞かせる形で物語が構成されています。
地域習俗、常民生活と文化、その記録には奥深いものがありました。
「みなかみ紀行」若山牧水
利根川の源流を訪ねて長野、群馬、栃木を巡った24日間の紀行文です。山に囲まれた谷川やそこに点在する村々を描写しながら短歌が紹介されていきます。水源にたどり着いたことを喜び、水の中へ踏み込み手と顔を洗い水を貪り飲む筆者。通りがかりに素通りできないと面識のない創作社社中の実家を訪問する筆者。紅鱒養殖の番人と飲もうと一升瓶を持参する筆者。等々、その姿に人となりを感じる作品でした。
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