「上げる」「挙げる」「揚げる」の意味の違いと使い分け
- 物価があがる
- 船荷をあげる
- 一例をあげると
- 本を貸してあげる
上の文の「あがる」「あげる」の書き表し方はそれぞれ違います。
正解は、
- 物価が上がる
- 船荷を揚げる
- 一例を挙げると
- 本を貸してあげる
です。
このような「異字同訓」の漢字の使い分けに迷うことはありませんか?
ということで今回は、「上げる」「挙げる」「揚げる」の意味の違いと使い分けについて調べてみることにしました。
目次
「上げる」「挙げる」「揚げる」の意味
いくつかの辞書で「あげる」を引いてみましたが、その多くが同一の見出しで「上げる」「挙げる」「揚げる」を説明していました。その中で、見出し語を分けて記載していた「日本語大辞典」を参考にさせていただきました。
また、漢字の使い分け等については、「日本語に強くなる本」「文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料)」「大辞林第三版」「朝日新聞の用語の手引き」「毎日新聞用語集」を参考にさせていただきました。
【上げる】
下がる(下げる)の対語。終わる。
㊀
①(他動詞)
㋐場所を下から上へ移す。「本を棚に上げる」「腰を上げる」
㋑程度を高める。状況をよくする。「生活水準を上げる」「腕を上げる」
㋒価を高くする。「値段を上げる」「運賃を上げる」
㋓物音や名声などを高くする。「名を上げる」「大声を上げる」
㋔はっきり、それと示す。「証拠を上げる」
㋕食べた物をはく。もどす。
㋖進級・進学させる。「子を高校に上げる」
㋗物事をなしとげる。仕上げる。「仕事を月末までに上げる」
㋘神仏に供える。「おみきを上げる」「灯明を上げる」
㋙客を座敷などにみちびく。「座敷へ上げる」
㋚すべて済むようにする。「1000円で上げる」
㋛(「与える」の丁寧語)進呈する。「本を上げる」
②(自動詞)潮がさす。「潮が上げてくる」
③(動詞の連用形に付いて)丁寧な言い方。「存じ上げる」「申し上げる」
㊁(補助動詞)(動詞の連用形に+助詞「て」の形で)「…てやる」の丁寧な言い方。「教えて上げて」「つれてって上げて」
「日本語に強くなる本」では、「上」の使い分けについて次のことが書かれてあります。
- 単独の動詞として、「品物を上げる」「物価が上がる」など。
- 複合動詞として、「浮き上がる」「繰り上げる」「伸び上がる」「飛び上がる」「つり上げる」「申し上げる」など。
- 補助動詞として、「仕上がる」「刷り上がる」「縮み上がる」など。しかし、「図書を貸してあげる」の「あげる」は仮名書きにする表記習慣になっている。
この「…してあげる」について、「文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)」を見ると、「文部科学省用字用語例」に次のようにありました。
見出し | 表外漢字・表外音訓等 | 書き表し方 | 備考 |
あげる | 上げる 揚げる 挙げる …(て)あげる | 物価が上がる、成果を上げる 船荷を揚げる、歓声が揚がる 一例を挙げると、国を挙げて 本を貸してあげる |
このように、「…(て)あげる」と平仮名書きするのだとすれば、
「教えて上げて」は「教えてあげて」
「つれてって上げて」は「つれてってあげて」
となります。
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【挙げる】
はっきり分かるように示す。列挙など。
①式をとり行う。「結婚式を挙げる」
②例として、示す。「一例を挙げる」
③得る。おさめる。「収穫を挙げる」
④犯人などを捕まえる。「星を挙げる」
⑤全部を出しつくす。「全力を挙げる」
⑥世に知らせる。「名を挙げる」
⑦いくさを始める。「兵を挙げる」
⑧手を上へ動かす。「手を挙げる」
ここで迷ってしまうのが、名声などを高くする意味での「名を上げる」と、世に知らせる意味の「名を挙げる」の使い方です。
このことについては、「朝日新聞の用語の手引き」に次のように記載されています。
名が上がる・名を上げる<名声>
名が挙がる・名を挙げる<列挙>
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「名声」とは「良い評判」ですから、「名を上げる」は「良い評判を高くする」という意味です。
「列挙」とは「一つ一つ並べあげること」ですから、「名を挙げる」は「名を並べあげて、世間に知らせる」という意味になります。
「大辞林第三版」には
㋓話題となっているものを明確にするために、名称・事実・例・数値などを具体的に示す。
《挙》「次期社長の候補として三人の名を-・げる」「例を-・げる」
とありました。
「名を挙げる」の使い方としては、「次期社長の候補として三人の名を挙げる」が分かりやすいですね。
【揚げる】
高く掲げる。浮揚など。
①船から陸に移す。「積み荷を揚げる」
②水中から取り出す。「タイを一匹揚げる」「菜をゆでてざるに揚げる」
③旗などを高くかかげる。「国旗を揚げる」
④たこなどを、高く飛ばす。「気球を揚げる」
⑤揚げ物をつくる。「天ぷらを揚げる」
⑥芸者などを座に読んで遊興する。「芸者を揚げる」
「日本語大辞典」には「物音などを高くする」という意味で「大声を上げる」とありますが、大辞林第三版には、
㋑大きな声を発する。《上・揚》「喚声を-・げる」「金切り声を-・げる」
とありました。《上・揚》は、「上げる」でも「揚げる」でもよいということです。
ただ、前述の「文部科学省用字用語例」では備考で「歓声が揚がる」という使い方を示していたので、公用文では「揚がる」を使った方がよいかと思います。
さらに、「朝日新聞の用語の手引き」と「毎日新聞用語集」も調べてみましたが、どちらも「歓声を上げる」と示していました。
これらのことから、私文書等一般的な文書であれば、「歓声が揚がる」「歓声を上げる」のどちらを使ってもよいと理解しました。
まとめ
「上げる」「挙げる」「揚げる」の意味の違いと使い分けについてお伝えしてきました。
今回のポイントをまとめます。
- 「上げる」:下がる(下げる)の対語。終わる。 → 物価が上がる、成果を上げる
- 「挙げる」:はっきり分かるように示す。列挙など。 → 一例を挙げると、国を挙げて
- 「揚げる」:高く掲げる。浮揚など。 → 船荷を揚げる、歓声が揚がる
- 「…(て)あげる」→ 本を貸してあげる
【出典元】
「日本語大辞典1989版(講談社)」「日本語に強くなる本1994版(省光社)」「文化庁 新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)2017版」「大辞林第三版(三省堂)」「朝日新聞の用語の手引き2015版(朝日新聞出版)」「毎日新聞用語集1996版(毎日新聞社)」