「流れて行く」の「行く」は、「いく」と読むのか「ゆく」と読むのか?
七色の谷を越えて
流れて行く 風のリボン
輪になって 輪になって
かけて行ったよ
春よ春よと
かけて行ったよ
この詞は「花の街」という歌の一番ですが、この詞で、「流れて行く」の「行く」は「いく」なのか「ゆく」なのか質問されたことがありました。
「行く」をどう歌うかは、作者や演奏家の意向によるものなので、ここでどちらかを決めることはできませんが、漢字の読み方という点で興味あるテーマだったので早速調べてみることにしました。
国語辞典では
「行く」について、手持ちの国語辞典で調べてみました。
「新明解国語辞典」は
- 「いく」の解説に、「ゆく」の口語形
- 「ゆく」の解説に、〔音便形は「いった」「いって」〕
と記しています。
(出典元:「新明解国語辞典第七版」三省堂)
「旺文社国語辞典」は
「いく」を空見出しにして、「ゆく」を参照するように示しています。
そして、「ゆく」の参考として、
- 「ゆく」は「いく」ともいう。
- 「行って」「行った」の場合は「いって」「いった」と発音する。
としています。
(出典元:「旺文社国語辞典第九版」)
「岩波国語辞典」は
「いく」を空見出しにして、「ゆく」を参照するように示しています。
そして「ゆく」の補足説明として、
- 古くから「いく」とも言う。
- 口語で「て」「た」「たら」などに続く場合は「いって」「いった」「いったら」などの形になる。
としています。
(出典元:岩波国語辞典第五版)
上記の辞典では、「ゆく」を見出しにして「いく」を空見出しにしているので、「ゆく」を優先しているように感じます。
一方、
「明鏡国語辞典」は
「ゆく」を空見出しにして、「いく」の見出しで次のように解説しています。
- 「いく」は「ゆく」とも言う。
- 「ゆく」には「いく」にない古風で優雅な響きがあり、「去りゆく」「進みゆく」「更けゆく」「暮れゆく」など、一般に文語的表現で用いられる。
- 「ゆく」には促音便形がなく、「学校にゆった」とはならない。
- 近年、口語的で活用のそろった「いく」の方が優勢的。
(出典元:「明鏡国語辞典第二版」大修館書店)
常用漢字表では
では、常用漢字表ではどうなっているかというと、
漢字 | 音訓 | 例 | 備考 |
行 | コウ ギョウ アン いく ゆく おこなう | 行進、行為、旅行 行列、行政、修行 行脚、行火 行く 行く、行く末 行う、行い |
⇔逝く 行方(ゆくえ) ⇔逝く |
〔出典元:文化庁新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)〕
とあり、音訓では「いく」「ゆく」のどちらも認められています。
まとめ
「いく」と「ゆく」は、どちらの言い方も認められている。
「いく」は口語的で、話し言葉として一般的な言い方である。
- 「学校にいく」
- 「そろそろいこう」
- 「あっちへいけ」
「ゆく」は文語的で、古風で優雅な響きがある。
- 「去りゆく」
- 「進みゆく」
- 「更けゆく」
- 「暮れゆく」
「行って」「行った」の場合は「いって」「いった」と発音します。「学校にゆった」とは言いません。
「いく」と「ゆく」はどちらも標準的な言い方ですが、「ゆく」の用法が限られているので、現代の口語としては「いく」を基準と考えた方が良いようです。
冒頭で紹介した「花の街」の「流れて行く」の件ですが、楽譜(音楽之友社、合唱名曲大系5)を確かめてみると「流れて行く」は「流れていく」と表記されていました。
ところで、この曲をYouTubeで聴いてみたのですが、「流れて行く」を「ゆく」と歌ったり「いく」と歌ったりしており、演奏家によって歌い方が違うということが分かりました。