「元」「本」「基」「下」の意味の違いと使い分け
「この画集の出版元をさがしている」
「国の本は農業である」
「資料を基に議論する」
「法の下ではみな平等である」
上記の例文には、どれも「もと」という漢字が使われています。
このような異字同訓の漢字の使い分けに迷うことはありませんか?
ということで、今回は、
「元」「本」「基」「下」の意味の違いと使い分け
についてお伝えいたします。
目次
「元」「本」「基」「下」の意味の違い
「元」の意味
「元」は「もと」の中で一般的にもっとも多く使われる言葉です。
音読みで「元祖」「元旦」と使われるように、
「物事の始め」
という意味があります。
「もともと」という副詞も本来は「元々」です。
「前の」という意味で「元の住所」などのように使われます。
「もとで」という意味もあり、「元を取る」「元がかかる」と使います。
「本」の意味
「本」は、本来は木や茎の根、
「物事の根本をなすところ」「根幹」「基礎」「土台」
という意味です。
「末」の対語で、「本と末」「本を正す」などと使います。
「基」の意味
「基」は、音読みで「基礎」「基盤」「基本」と使うように、
「成り立つ下の部分」
という意味です。
「資料に基づく」「基になる資料」などと使います。
「下」の意味
「下」は、音読みで「樹下」「門下」と使われるように、
「上に広がるものに隠れる範囲」
という意味があります。
「灯台下暗し」「一言の下にはねつける」などと使います。
それは、「物のした」という意味だけだはなく、
「ある人のいる所。その人の影響の及ぶ所」
という意味があり、「親の下を離れる」などと使います。
「元」「本」「基」「下」の使い分け
「元」「本」「基」「下」使い方について、国語審議会漢字部会が作成した「異字同訓の漢字の用法」にも記載されています。
もと
下……法の下に平等。一撃の下に倒した。
元……火の元。出版元。元が掛かる。
本……本を正す。本と末。
基……資料を基にする。基づく。
[出典元:「文化庁新訂公用文の書き表し方の基準(資料集)]
以下、使い分けの参考に例文を示します。
「元」の例文
「元へさかのぼって考え直す」
「火の元」
「出版元」
「元の場所に戻る」
「会場を元通りにする」
「加工前の元の画像を探す」
「異臭が発生した元を調査する」
「元手がかかりすぎる」
「本」の例文
「本が枯れる」
「農は国の本」
「生活を本から見直した」
「本を正せば、私が悪い」
「その発言は何を本にしたものなのか」
「基」の例文
「資料を基に議論する」
「基がしっかりしているからこの建物は安全だ」
「基の知識がないとこの問題は理解できないだろう」
「旧モデルを基に新製品を開発する」
「既存のプログラムを基にプログラムを書き直す」
「失敗は成功の基」
「下」の例文
「花の下に遊ぶ」
「自由の旗の下に集まれ」
「白日の下にさらす」
「双頭の鷲の旗の下」
「親の下を離れ独り立ちした」
「彼はいつも親の監視の下に置かれている」
「博士の指導の下、新製品を開発した」
「恩師の下を尋ねる」
まとめ
「元」「本」「基」「下」の意味の違いと使い分けについてお伝えしましたがいかがでしたか?
今回のまとめをします。
- 「元」…「物事の始め」という意味。「火の元」「出版元」「元が掛かる」と使う。
- 「本」…「物事の根本をなすところ」という意味。「本を正す」「本と末」と使う。
- 「基」…「成り立つ下の部分」という意味。「資料を基にする」「基づく」と使う。
- 「下」…「上に広がるものに隠れる範囲」という意味。「法の下に平等」「一撃の下に倒した」と使う。
「もと」という言葉は普段よく使います。
「元」「本」「基」「下」の使い分けに迷ったときには、その意味の違いに立ち返ってみてください。
親の下を離れるは分かりますが、おやもと…親下でよいでしょうか。
あしもと、私のもとに多くの意見が寄せられたなどは、どう書けばいいのでしょうか。
また、おてもと、おんもとなどでよく見かける「許」を「もと」と読ませることもあると思いますが、
今回の例示の中にないのはなぜですか。
ご質問ありがとうございました。
「親もと」は「親の住んでいる所」という意味なので「親元」になると思います。
「あしもと」についていくつかの国語辞典を引いてみると、「足下」が一般的とされていました。一方、新聞社の用語集などでは「足元」に統一されています。つまり、個人的な文章であれば、どちらを使っても間違いではないということだと思います。
「私のもとに多くの意見が寄せられた」は「私の所に~」という意味ですから「私の元に~」と書くべきでしょう。
「てもと」は、文科省用字用語例によれば「許」が表外音訓なので「手元」と書き表すことになっています。
「おんもと」には「御許」以外の表記がなく、手紙の脇付という役割もあるので、「御許」で良いと思います。
「許」について例示しなかったのは、表外音訓である「許」を入れると説明が分かりにくくなると思ったからです。
貴重なご質問をいただきました。更に調べてみる必要を感じました。ありがとうございました。
質問です。
>「私のもとに多くの意見が寄せられた」は「私の所に~」という意味ですから「私の元に~」と書くべきでしょう。
とありますが、辞書で調べると、下(もと)には…
その人のところ。そば。「親の―を離れる」
とあります。
元(もと)の中に「〜のところに」という意味が含まれるとお考えの根拠は何でしょうか。
元には「物事の始め」というニュアンスが含まれ、「〜のところ」というニュアンスはないものと認識しております。
ご教示いただけますと幸いです。
ご質問ありがとうございました。
「下(もと)」については、「その人のいる所。また、その人やある物事の支配・影響などの及ぶ所」などと解説している辞書と、「その人の勢力の及ぶ範囲内」などと解説している辞書がありました。
後者の意味からすると、「親の下を離れる」には親の支配下から離れるというニュアンスがあります。
一方、「親の元を離れる」の場合、「親元」には「親の住んでいる所」という意味があるので意味合いが違ってきます。
「元(もと)」に「~ところ」という意味が含まれると考えた根拠は、ということですが、このことについては、平成26年2月21日に文化審議会国語部会が示した「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)が分かりやすいので参照させていただきます。
【下】影響力や支配力の及ぶ範囲。…という状態・状況で。物の下の辺り。
法の下に平等。ある条件の下で成立する。一撃の下に倒した。花の下で遊ぶ。 真実を白日の下にさらす。灯台下暗し。足下(元)が悪い*。
【元】物事が生じる始まり。以前。近くの場所。もとで。
口は災いの元。過労が元で入院する。火の元。家元。出版元。元の住所。元首相。 親元に帰る。手元に置く。お膝元。元が掛かる。
【本】(⇔末)。物事の根幹となる部分。
生活の本を正す。本を絶つ必要がある。本を尋ねる。
【基】基礎・土台・根拠。
資料を基にする。詳細なデータを基に判断する。これまでの経験に基づく。
* 「足もと」の「もと」は,「足が地に着いている辺り」という意で「下」を当てるが,「足が着いている地面の周辺(近くの場所)」という視点から捉えて,「元」を当てることもできる。
なお、この報告の前書きに
3 同訓の漢字の使い分けに関しては,明確に使い分けを示すことが難しいところがあることや,使い分けに関わる年代差,個人差に加え,各分野における表記習慣の違い等もあることから,ここに示す使い分け例は,一つの参考として提示するものである。したがって,ここに示した使い分けとは異なる使い分けを否定する趣旨で示すものではない。また,この使い分け例は,必要に応じて,仮名で表記することを妨げるものでもない。
とあることから、「私の元に~」は「私のもとに~」と仮名書きにしてもよいということを申し添えておきます。
ご質問をいただき勉強になりました。ありがとうございました。
どの文字も「根っこ」の根に通じるように感じ、似ているなあと感じていたので、未だにどれだっけ?となる事が多いので、調べてみてここに行き着きました。
私はこういう場合、英語的なニュアンスだとこの言葉かな、という感覚で覚えるようにしています。
例えば今回の場合であれば、元:start 基:base 下:under みたいな感じです。でもこれだと「本」に該当する英語が思い付かないんですよね。無理やりに、centerかなあ?と捻り出したのですが今一しっくり来なくて…。何か妙案がありましたらお聞きしてみたく思いました。
それにしても、日本人ですら日本語を難しいと感じるのだから、海外の方々から日本語を習得するのは難しいと言われるのも納得ですね。
コメントありがとうございます。
講談社「日本語大辞典」では、各語釈の末尾にその意味にあたる英語が付けられていて、
「元」はbeginninng, former stateなど
「本」はfoundation, root
「基」はfoundation
「下」はunder
としています。
Foundationとrootを逆引きすると、
Foundationは「土台」「基礎」、rootは「根」「根本」とありました。
英語にはくわしくないのでお答えできませんが、上記を参考にしていただけたら幸いです。
勉強になりました。ありがとうございました。
返信ありがとうございます。そういう調べ方もありましたね…こちらこそ勉強になります。
あの後久々に英和辞典を出してきて調べたんですが、やはり基はfoundationになるんですね。
しかしそうなると本が問題ですね。foundationでは基と同じになってしまい、rootでは前述したとおり「根っこ」の意味で重なってしまって…。
結局、”基本”的には日本語での用途を丸暗記した方が早そうだなと思いました(苦笑)。日々これ勉強あるのみですね。ありがとうございました。
「許」は表外音訓であることは、上記のご説明で分かりました。
なお、「ある作家のもとで秘書をしていたが...」などの文で「許」を使う場合、「作家の許で」は、表現としては間違っていないでしょうか。
ご質問ありがとうございました。
三省堂「漢辞海」で「許」を引いてみると「場所。ところ。もと。」とありました。したがって、「作家のところで」という意味で「許」を使うのであれば問題ないと思います。もちろん、個人的な文章の範囲内でのことですが。